著者
川手 圭一
出版者
東京学芸大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、ドイツ第二帝政期からヴァイマル期にかけての青少年福祉政策が、下層青少年の生活世界に及ぼした影響を考察したものである.世紀転換期以来、ドイツでは、急速な工業化とこれに伴う都市化のもとで、「危険に晒された青少年」の存在が、社会的な問題になっていた.とりわけ危険視されたのは、14歳で初等教育を終えて不熟練労働に従事する青少年たちであり、彼らに対して教育者、社会改良家、行政当局が青少年福祉政策(青少年育成、青少年保護)を実施していくこととなる.そのさい注目すべきは、もっぱら自治体によって運営される補習学校であった.ここでは、単に専門的な技術教育ばかりでなく、「よき国家公民」をつくるための一般教育が行われ、これらを通じて青少年に対する規律化が進められたのである.この補習学校は、手工業の徒弟制度の伝統をある意味では受け継いでいたが、しかしドイツの工業化の中にあって、明らかに近代的な特徴をもつものであった.本研究では、まず第一にこの補習学校設立の理念、またその教育内容の実態が明らかにされた.他方、本報告では、上記の補習学校による青少年の規律化が、下層青少年の生活世界からみたとき、どのようなものであったのかが考察された.近年、社会史・日常史の研究成果は目覚しいものがあるが、ここでもハンブルク、ベルリンなどでの労働者の生活世界、下層青少年のサブカルチュアが、検討の対象となった.そのさいには、世紀転換期の「ハルプシュタルケ」、ヴァイマル期の「ヴィルデ・クリケン」、さらに第三帝国期の「エ-デルヴァイスピラ-テン」の比較検討が問題となる.
著者
川手 圭一
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、国境変更後にポーランド国内に居住することになったドイツ人住民を主体・客体として展開した「国境を超える」「ホームランド・ナショナリズム」の実態を追った。そのさい、併せてドイツ国内のポーランド人住民、とりわけドイツ本土から「ポーランド回廊」によって切り離された東プロイセンのポーランド人を取り巻くナショナリズムの問題にも注目することで、「ホームランド・ナショナリズム」の客体として翻弄される国境地域の住民の社会的問題を明らかにした。