著者
冨田 宏 木下 健 山口 一 林 昌奎 川村 隆文 早稲田 卓爾
出版者
独立行政法人海上技術安全研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

海洋において突然出現する巨大波浪(Freak/Rogue Wave)は大型船舶や海洋構造物の重大損傷、中小船舶の喪失を引き起こす極めて危険な現象として近来世界的にその発生機構の解明や発生頻度の推定に関する研究が注目されている。本課題研究においては先ずフリーク波がどのような波として実海域に出現するのかについて既存のデータや海員等の実体験をもとにフリーク波の特異性について共同研究者ならびに関係者によって組織されたフリーク波研究会において引き続き定期的に議論を行い、共通認識を深めた。さらに当該期間中造船学会におけるオーガナイズドセッションをはじめ、フリーク波や関連現象に興味を有する数学、数理物理学、海洋学、船舶・海洋工学、土木工学等諸分野の研究者に呼びかけ、九州大学応用力学研究所においてシンポジウム「海洋巨大波の実態と成因の解明」を2回にわたって開催レ、異分野間の交流を深め研究の進捗に多大な刺激を与えた。得られた成果の一部は海外研究集会においても発表された。さらに、韓国におけるフリーク波研究プロジェクトグループ(MOERI)との交流の一環として、釜山で開催されたフリーク波の国際シンポジウムに参加し、研究代表者が招待講演を行った。それらの議論を踏まえて、2次元的な長い峰を持つ場合についてはうねり等に適用出来ると言われている非線形波動理論、就中、非線形シュレディンガー方程式を基礎とした理論的研究をさらに詳細に行い、そこでプラズマ物理学において現れるホモクリニックな解としてのBreatherと呼ばれる現象に着目し、これを水面波に応用することによってフリーク波の有力なモデルが得られることを明らかにした。この結果は船舶試験水槽における物理実験ならびに81E法を用いた数値シミュレーションによっても確認され、曳航模型船に対する波浪荷重の推定実験の入力データとして提供された。また当該方程式の差分法による数値計算を実行することによって、周期境界条件の下ではこの種のブリーク解が繰り返し現れFPUの回帰現象を示すことを確かめた。この結果からフリーク解が(1Dについては)KdVソリトンに類似の基本解であることが明らかとなった。より一般の方向性(2D)を有する巨大波についてはこの現象の発現が稀であることから十分多数の観測データを取得することが困難であるため、発生確率を正確に決定するには至らなかった。実用的に重要なこの課題を克服するためには実海域における人工衛星リモートセンシングから確認する必要があるためそれを可能とするデータ解析アルゴリズムの開発を引き続き行っている。さらに散乱データに大きな影響を与える要素である海上風とそれによる表面誘起流れの様子を子細に調べるためにCFD手法に基づく海面での大気一海洋相互作用シミュレーション計算を引き続き行っている。方向性を有する波列の研究は新しい科研費研究課題として取り組まれる予定である。この種のシミュレーションが本格化すれば100年来の海洋学の未解決な大課題である風波の発生機構にも解決を与えることが可能であると期待される。