著者
濱田 篤郎 奥沢 英一 川淵 靖司 西川 哲男
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.72, no.12, pp.1283-1288, 1998

発展途上国在留日本人の腸管寄生虫感染状況を明らかにするため, 途上国の都市部に在住している日本人を対象に糞便の寄生虫検査を実施した. 検査の対象地域はアジア, 中近東, アフリカ, 東欧, 中南米で, 1995年の被検者数は981名, 1996年は1, 275名である.現地で採便後, 日本に持ち帰りホルマリン・エーテル法で検査を行った.<BR>その結果, 腸管寄生虫感染率は1995年3.0%(29名), 1996年2.4%(30名) であった.地域別ではアフリカ (1995年5.7%, 1996年4.7%), アジア (1995年3.8%, 1996年3.0%) の在留日本人で感染率が高く, 中近東, 東欧, 中南米で低かった.検出された寄生虫種では, Giardia, lambliaが計17例と最も多く, <I>Trichuris trichiura</I>14例, <I>Ascaris lumbricoides</I> 11例, <I>Heterophyes heterophyes</I> 7例と続いている.年齢別では小児よりも成人の方が感染率は高く, また滞在期間が長くなるほど感染率は高い傾向にあった.腸管寄生虫感染者のうち, 消化器症状を訴える者は36.8%と比較的高率であった.さらに, 感染者の既往疾患として, 胃十二指腸疾患をもつ者が28.1%に認められた.<BR>途上国在留日本人の腸管寄生虫感染率は, 現地の住民に比べると低い数値であるが, 日本国内居住者に比べると高率であり, 今後も腸管寄生虫感染予防のため一層の努力が必要である.