著者
山本 晴康 川谷 義行 尾形 直則
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

褥瘡の発生のメカニズムを検討するため、圧力センサーと血流センサーは重ねて貼付し、踵部の圧と血流の同時測定を行った。健常人での測定では安静仰臥位では踵骨部後面に約350mmHgの圧がかかっておりほとんど阻血状態であった。その後下肢を徐々に挙上していくと120mmHgあたりで血流は再開し始め、10-20mmHgでほぼ正常の半分の血流が得られることが判明した。30mmHgでは無荷重時の74%、10mmHgでは100%の血流が得られた。健常者の除圧時の踵部の血行は27.45±2.64ml/min/100g(n=5)であり、圧力が0になってから血行がmaximumに回復する時間は3秒前後であった。これと比較し、除圧時の踵部の血行は重度の糖尿病をもつ患者では一様に悪く、平均が18.25±6.04ml/min/100g(n=4)であり、健常人の半分以下である患者もいた。50mmHgの圧力でも糖尿病患者では10%以下に血流が低下してしまった。圧力が0になってから血行がmaximumに回復する時間は平均7.14秒であった。一方、片麻痺患者では健常人と比べ、患側でも除圧時の踵部の血行は26.25±12.2ml/min/100g(n=8)と比較的保たれていた。50mmHgの圧力では血流はmaximumの10%に落ち、圧力が0になってから血行がmaximumに回復する時間は平均6.15秒でやはり健常人と比較すると明らかに遅延していた。大腿骨頚部骨折に対して手術を行った患者5例では、踵部の最大血流量の平均は健側30.6ml/min/100g、患側30.2ml/min/100gで、健常者に比較し、低下は見られなかった。しかし、手術した側(患側)はしていない側(健側)に比べ、明らかに少ない圧力での血行障害が生じていた。また、踵部が完全に除圧されてから血流が最大に回復されるまでの時間を調べた結果、健側は平均3.01±134(n=5)秒であるのに対して、患側は平均20秒近くかかっていた(19.44±2.35秒、n=5)。また、5例全ての症例で、患側肢では50mmHgの圧力で、血行がほとんど途絶えてしまっていた。術後安静を余儀なくされている症例では、圧迫により容易に血流障害を生じ、また、圧迫を除去されてからの血流の可塑性も低下していた。