著者
川野 大二郎 宮下 浩二 井出 善広 増田 清香 岡本 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P3432, 2009

【目的】野球肘の発生要因として、投球動作などの個体要因、投球数などのトレーニング要因、使用するボールなどの環境要因が挙げられる.硬式球と軟式球ではボールの重さが異なり、特に成長期の選手における硬式球の使用は経験的に発生要因となることが知られているが、その影響について定性的に分析した研究はほとんどない.そこで本研究では、ボールの重さの違いによる投球時の肩関節と肘関節の運動学的差異を比較することを目的とした.<BR><BR>【方法】対象は中学生の軟式野球選手15名(年齢13.9±0.7歳、野球歴6.1±1.9年)とした.対象に硬式球(146.5g)および軟式球(135.5g)の2条件で投球を行わせ、ステップ脚の足部接地時からリリースまでの肩外旋角度、肘関節外反角度、肘関節外反角加速度を三次元動作解析にて算出し、両条件間で比較した.また、肘関節外反角加速度とボールの質量の積による運動方程式を用い、加速期において肘関節に加わる外反方向への力を求め、軟式球投球時に加わる力に対する硬式球投球時に加わる力の比率を算出した.各角度の両条件間の比較には繰り返しのある二元配置分散分析を用いた.肘関節に加わる外反方向への力の比率の検定にはWilcoxon符号付順位和検定を用いた.いずれの検定も危険率5%未満を有意とした.<BR><BR>【結果】肩関節外旋角度、肘関節外反角度については両条件間に有意な差はなかった.肘関節外反角加速度については、肩最大外旋位からリリースの間で硬式球投球時が軟式球投球時より有意に大きかった.また、肘関節外反方向へ加わる力の比率は、軟式球投球時を1とした時、硬式球投球時は1.8±1.7となり、硬式球投球時には軟式球投球時と比較して約1.8倍の力が肘関節外反方向へ加わっていた.<BR><BR>【考察】野球肘の発生は加速期における肘関節外反ストレスが原因の一つとされており、そのストレスを増大させる要因を明らかにすることが野球肘の予防には重要となる.肘関節外反ストレスは、主に加速期おいて近位部に対して遠位部が遅れる現象、いわゆるlagging backによって生じる.今回、加速期において硬式球投球時には軟式球投球時の約1.8倍の力が肘関節外反方向へ加わっていた.これは硬式球投球時にボールの重さの影響で、ボールを持った手部を含む前腕部の慣性が大きくなり、後方へ残る結果として、肘関節外反角加速度が有意に大きくなったためと考えられる.以上より、硬式球は肘関節外反ストレスを増大させる要因の一つとして考えられ、野球肘発生のリスクとなる可能性が示唆された.