- 著者
-
川野 敬
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- pp.000012, 2003 (Released:2003-04-29)
- 参考文献数
- 1
1.研究目的 これまでの子どもの外遊びに関する研究では,子どもの知覚環境の発達や遊び時間・遊び仲間・遊び空間(遊び場所・地域性)の変化が注目されてきた.これによって,子どもの日常生活やその周辺環境に対する関心が高まり,子どもの外遊びを促進する提言や施策がなされるようになった.そのなかで,子どもを社会の一構成要員として改めて捉え直すことで,彼らが社会のなかでどのような立場や位置にあるのかを明らかにする研究が試みられるようになった.その結果,子どもの「遊び」自体についても新たな解釈が求められるようになった. 報告者は子どもの「遊び」のなかでも,特に「外遊び」のあり方に着目し,その地理的パターンを規定する要因の一つとして想定される保護者というファクターについて関心を払う.その理由として,直接的に子どもの行動価値基準の形成にとって,保護者は最も大きな影響を及ぼしうる存在であると考えられるためである.そこで本研究では,保護者が子どもの外遊びに与える影響とその要因を明らかにする.そのため子ども自身が得る直接的な経験がどのように保護者の行動価値基準とズレを生じてさせているかを明らかにする.2.研究方法 奈良市北部にある平城ニュータウン内の2小学校区3子ども会の児童と、保護者である親に対してアンケートを配布した.まず基礎情報として,遊び場所と境界線の認識や経験について略地図をもとに両者に回答を求めた.そして各々の場所に対する評価として,子どもは遊び場所についての印象を,親は遊び場所・境界線における子どもへの注意の程度とその理由を質問した.なお,遊び場所は2小学校区全体で10地点の都市公園を対象とし,境界線はニュータウン内と外縁部にある主要な幹線道路と鉄道線路を選定した.3.研究結果 校区内の遊び場所については子ども・親ともに居住地を中心に全体的に認識しており,親はほとんどの遊び場所における子どもの外遊びを許可している.つまり校区内では親は子どもの行動に応じた比較的緩やかでかつ柔軟な対応をしている.ただし,治安に問題があると見られる場所に対する親の関心は強く,居住地からの距離に関係なく,そのような場所での外遊びの禁止割合が高い.しかし,親が禁止している遊び場所のうち居住地から近いものでは,子どもの外遊びが発生している. 校区外の場所について子どもはあまり認識しておらず,学年が進んでも遊び場所の知識量は学区内に止まっていた.他方,親についても子どもほどではないが,校区の内と外での知識量の格差は大きかった.そこで親の評価を見ると「そもそも行かない」と「禁止」の2つの判断に別れる.しかしこれは両者とも,具体的な情報よりむしろ漠然とした印象や不安といった理由によることがアンケートで分かった.このことは校区外の遊び場所で遊ぶことを禁ずる割合が距離に比例して単純に高くなっていることからも分かる.つまり,親自身が校区外についての具体的な情報を持たず,それを子どもに提供できていないためだと考えられる.4.考察 以上から,子どもの外遊びに対する親の態度や状況は校区の内と外によって大きく異なっている.そしてこの校区という基準を親から与えられ子どもは活動していることが明らかになった.このことはValentine and Mckendrick(1997)が指摘したように,親の養育態度が子どもの外遊びに影響を与えることと一致した.ただ入居後10年程度のニュータウンにおいては,親の地域に対する情報量の少なさが子どもの外遊びを決定づける要因の一つとなっている.そのため、親の養育態度も校区という境界線によって質的に大きく異なることが判明した.