著者
川野 義武 宮崎 哲哉 豊田 貴信 堀 恵輔 竹島 里香 林 良文
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第27回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.160, 2011 (Released:2011-12-22)

【目的】中枢神経系患者における体幹機能へのアプローチは重要である。この方法の一つとして、ストレッチポール(以下SP)を応用したアプローチの展開が進んでいる。日本コアコンディショニング協会(以下JCCA)の推奨するコアリラクゼーション、コアスタビライゼーション、コアコーディネーションの段階に基づくコアセラピーは、脳卒中片麻痺患者の治療にも十分応用可能な概念である。コアセラピーについて、健常者や運動器疾患を対象とした各関節アライメントの変化と下肢筋力や下肢協調性、柔軟性等の先行研究は存在するものの、脳卒中片麻痺患者を対象とした研究は未だ少ない。そこで今回、脳卒中片麻痺患者に対して、ストレッチポールを用いたコアセラピーが立位制御機能に及ぼす影響を検討することを目的に、アプローチ前後の重心動揺を測定し、若干の知見を得たので報告する。【方法】対象は、当院回復期病棟に入院中の脳卒中片麻痺患者6名(年齢58.2歳±8.4、右片麻痺3名、左片麻痺3名)とした。取込基準は、支持なしでの開眼、閉眼での立位保持が30秒以上可能な者とした。介入内容はJCCAが提唱するベーシックセブンによるコアリラクゼーションプログラムから抜粋した7項目と、ストレッチポール上でのコアスタビリティープログラム6項目を加えたエクササイズ(以下SP-Ex)、計13項目とした。実施時間は合計10分以内とした。なお基本姿勢の保持ならびに動作遂行に関して、随時必要な徒手的介入を施した。測定には重心動揺計(酒井医療株式会社製ActiveBalancerEAB-100)を用いた。条件として、裸足にて両足部の内側縦アーチ頂点間を20cm離した立位を設定基本肢位とし、静的立位で開眼、閉眼を各15秒間、アプローチ前後に各々1回ずつ測定した。測定指標は総軌跡長、外周面積、矩形面積とした。統計的手法にはWilcoxonの符号付順位和検定を用い、有意水準5%にて比較検討した。なお被験者には研究の趣旨と個人情報の取り扱いに関し、書面にて十分に説明。同意を得た上で研究に参加していただいた。【結果】開眼時では、アプローチ前後の総軌跡長・外周面積・矩形面積において有意な変化は認められなかった。症例毎では、総軌跡長にて3例に減少傾向、残り3例に増加傾向が認められた。外周面積と矩形面積について、2例で減少傾向、残り4例に増加傾向が認められた。一方、閉眼時では、総軌跡長・外周面積・矩形面積いずれにおいても有意に減少しており(p<0。05)、6例とも減少傾向が認められた。【考察】閉眼で総軌跡長、外周面積、矩形面積の減少を認めたことは、重心動揺の振れ幅を制御できるようになったと解釈できる。今回の対象者は一側性の片麻痺患者を介入対象としており、視覚情報の遮断から、開眼時とは異なり脊柱や脊柱起立筋群、足底などの接地面の固有受容器感覚を含む感覚入力が正中位指向の改善に影響したのではないかと考えられる。またSP-Exによるコアスタビリティーの向上に加え、SPという不安定な場面でのベーシックセブンは体幹の不安定性のある片麻痺患者に対して、コアスタビリティーとしてもすでに作用し、筋出力の向上につながったのではないかと考えられた。 一方、開眼時よりも閉眼時において、アプローチ前後の静的立位バランスは改善傾向にあった。この要因として、対象者特性を考慮すると亜急性期から回復期に属する片麻痺患者であり、視覚からの情報に対して何らかの情報処理エラーが生じやすく、閉眼時よりも開眼時ではコアの安定性による影響が反映されにくいと考えた。【まとめ】今回片麻痺患者に対し、ストレッチポールによるコアリラクゼーション・コアスタビライゼーションを中心としたアプローチを実施し、静的立位バランスへの即時的効果を検証した。結果、閉眼時の重心動揺指標は有意に減少しており、静的な立位制御機能に対して、足底からの固有受容器感覚を含む感覚入力や正中位認識の改善が期待できるのではないかと考えた。 日常遂行される動作は視覚情報を取り入れながらのものとなるため、今後は視覚情報と固有感覚器感覚とのリンク可能なアプローチ方法を考え、実施することが必要と考えられた。また今回の研究から、多様な症状を示す脳卒中片麻痺患者を対象とする際には、感覚機能やUSNの有無、麻痺の程度などの特定したグループのデータ収集も必要と考えられた。