著者
久保田 徹 筒井 裕之 市来 俊弘
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、炎症反応の中心的な転写因子であるNF-κBに着目し、NF-κBの活性化が心不全の発症と進展に果たす役割を明らかにすることである。具体的には、以下の4つの心不全マウスモデルを作成し、野生型マウスとNF-κB(p50)ノックアウトマウスで比較検討した。1.アンジオテンシン持続注入モデルマイクロ浸透圧ポンプを腹腔内に植込み、アンジオテンシンを4週間持続投与したところ、NF-κB(p50)ノックアウトマウスでは、体血圧の上昇はむしろ高度であったにもかかわらず、左室肥大が有意に抑制された。2.大動脈結紮圧負荷モデル胸部大動脈を結紮することで圧負荷モデルを作成したが、野生型マウスとNF-κB(p50)ノックアウトマウスで左室肥大の程度や心不全の発症に有意差を認めなかった。3.心筋梗塞モデル左冠動脈を結紮し急性心筋梗塞を作成したところ、NF-κB(P50)ノックアウトマウスでは、左室リモデリングの有意な抑制と生存率の改善が得られた。4.TNF-α過剰発現モデル心筋特異的TNF-α過剰発現マウスとNF-κB(p50)ノックアウトマウスを掛け合わせることでNF-κB(p50)遺伝子が欠損したTNF-α過剰発現マウスを作成したところ、心筋におけるサイトカインの発現や炎症細胞の浸潤は不変であったが、心筋肥大とMMP-9の活性化が有意に抑制され、左室短縮率と生存率の有意な改善を認めた。以上より、NF-κBは、炎症反応だけでなく、心筋肥大や心筋梗塞後リモデリングにおいても重要な役割を果たしていることが明らかとなり、心不全治療の新たな標的分子となりうることが示唆された。