著者
木下 正博 市瀬 和義
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.57-66, 2002-01-31
被引用文献数
6

富山湾の東部沿岸地域では毎年, 4〜6月にかけて10数回程度, 上位蜃気楼が観測される.その発生理由は, これまで海に流出した冷たい雪解け水が海面上の空気を冷やし上暖下冷の空気層を形成するためと言われてきた.しかし, 富山湾の5月の海面水温は, 周辺海域に比べて特に冷たいわけではなく, とりわけ富山湾が上位蜃気楼の発生に有利な地域ではないと思われた.そこで, この疑問を明らかにするため1999〜2000年の5,6月に気温の鉛直分布を観測した.その結果, 1999年5月22日の上位蜃気楼の発生日における気温の鉛直分布には, 海面上11〜15m付近に境界層を持つ上暖下冷の空気層が見られた.この観測結果と気温の鉛直分布を仮定した光路計算による蜃気楼画像のシミュレーションからは, 海岸だけでなく海上においても上暖下冷の空気層を形成していることが推定された.