著者
常山 聡 日下 起理子 田村 裕恵 小松 良一 久保田 芳正 櫻井 宏治 赤羽 弘充 高橋 昌宏
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第55回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.268, 2006 (Released:2006-11-06)

<緒言>乳腺粘液癌は、腫瘍性上皮細胞から細胞外へ分泌された粘液巣を特徴とする特殊型の浸潤性乳癌である。発生頻度は全乳癌の1_から_4%であり、比較的まれな腫瘍である。また、予後については他の組織型に比して良好である。今回我々は、17症例の粘液癌における予後因子について、他の組織型との比較を行なった。<対象と方法>1995年から2004年に当院外科にて手術が施行され組織学的に乳腺粘液癌と確認された17症例を対象とした。また、比較対象として2002年_から_2004年の期間に当院で手術施行され、組織学的診断において粘液癌を含む特殊型を除いた166症例を使用した。これらの症例について、予後因子としてのエストロゲンレセプター(ER)、プロゲステロンレセプター(PgR)、p53、Her2/nueとの比較を行なった。<結果>ERにおける陽性率は、粘液癌では17症例中16件が陽性であり94%であった。また他の組織型では、120症例中84件で陽性率は70%であった。 ERは乳癌における予後因子として有用とされており、悪性度と負の相関を示すとされている。今回の結果における粘液癌のER陽性率は、他の組織型に比して高く、予後が良好であることを示していると考えられる。また、粘液癌でER陰性の症例1例は、肺転移をおこしていた。 PgRについては、粘液癌で13例が陽性で陽性率76%、他の組織型では120症例中陽性68例で陽性率51%であった。 PgRも乳癌における予後因子として有用であり、ER同様に悪性度と負の相関を示している。今回の結果における粘液癌のPgR陽性率も、他の組織型に比して高く、予後が良好であることを示していると考えられる。また、肺転移をおこした粘液癌については、PgRも陰性であった。 p53については、粘液癌で1例が陽性で陽性率6%、他の組織型では126症例中45件が陽性で陽性率36%であった。 p53については、ER・PgRとは反対に悪性度と正の相関を示すとされている。今回の粘液癌のp53陽性率は、他の組織型に比し低く、予後が良好であることを示していると考えられる。 Her2/nueについては、粘液癌で1例が陽性で陽性率6%、他の組織型では146症例中30例が陽性で陽性率21%であった。 Her2/nueは、p53同様にER・PgRとは反対に正の相関を示すとされている。今回の粘液癌のHer2/nue陽性率は、他の組織型に比し低く、予後が良好であることを示していると考えられる。また、粘液癌でHer2/nue陽性の症例1例は、ER・PgRともに陰性で肺転移をおこしていた症例であった。<考察>乳腺粘液癌は他の組織型に比較して、予後は良好であるとされている。また今回検討した予後因子からも良好であることが示されている。また、粘液癌17症例中現在までに転移が確認されている1例については、ER・PgRともに陰性、Her2/nue陽性と今回検討した3つの予後因子が、悪性度の高い可能性を示している。乳腺粘液癌においては、予後因子で悪性度が高い可能性を示している場合、将来の転移の可能性も考慮し、経過を観察していく必要があると考えられる。今後、再発の有無を含めた術後経過と予後因子の関係についても更なる検討をしていく必要があると考えられる。