著者
平原正樹
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告マルチメディア通信と分散処理(DPS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.121, 2006-11-16
被引用文献数
1

20年以上前に生まれたインターネットプロトコル(IP)につぎあてしていくのには限界がある。そのアーキテクチャの根本的見直しやプロトコルの再設計が必要ではないか?キャリアはITU-Tなどで次世代ネットワーク(NGN)としてIP技術の導入を進めているがその将来への道筋はどうなのであろうか?「次世代」は、携帯電話の第3世代のように、あるいはIPv6のように、ある確立された技術の改良版であるのに対して、「新世代」とは、携帯電話やIPそのものが初めて生まれた時、それは既存技術の延長上になかったことを指す言葉である。米国NSFが計画中のGENIや、EUでのEuro-FGIなどでも、白紙の状態からの研究開発の重要性が指摘されている。情報通信研究機構(NICT)も、新世代ネットワーク研究開発を2006年度からスタートさせている。これらはすべて、次世代ではなく、新世代ネットワーク研究と言える。次世代が5年程度の短期的な研究開発であるのに対し、新世代は10年後以降の技術を前提にした長期的な、基礎的な研究開発である。本講演では、新世代ネットワーク研究の必要性、世界的な状況に触れた後、NICTをコアとする新世代ネットワークアーキテクチャの研究開発について紹介する。個々の領域のサブアーキテクチャに留まらず、全体のグランドデザインを目指し、10年後の光ネットワーク技術やワイヤレスデバイス技術に基づいたネットワークアーキテクチャの確立を目指している。アーキテクチャとは、設計原理に基づいた要素技術の組み合わせ方であり、そのために技術の取捨選択と統合の作業が必要となる。10年後のネットワークに対する要求や使い方、10年後のネットワークを支える要素技術を予測することは難しいけれども、多様性を増す人類の可能性を妨げずに伸ばすものでなければならない。現在の技術との連続性を忘れて行う設計が本当に陽の目を見るか判らなくても、少なくとも我々は、理想の将来ネットワーク像を持たなければならない。それが、現在進行中のネットワーク研究開発に対し、将来への方向性を差し示し、ネットワーク基礎研究から応用研究への掛け橋となる。