著者
杉山 敏郎 平山 文博 浅香 正博 穂刈 格
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

H.pyloriは慢性萎縮性胃炎、胃癌の主要な病因と考えられ、その関連性は疫学的、動物実験モデルにより実証されている。我が国のH.pylori感染者は約6000万人と推定されているが、胃癌予防のために全感染者を除菌することは現実的に不可能である。したがって、予防ワクチンの開発は重要である。さらに開発途上国では胃癌患者はいまだ増加傾向にあり、かつ多数の感染者を除菌することは経済的に全く不可能であり、一層、予防ワクチンの開発が必要とされる。本研究ではH.pyloriリコンビナントカタラーゼ蛋白をワクチンとして用い、スナネズミに免疫し、その後、胃癌を高頻度に発症するH.pylori菌株を感染させ、感染の成立、胃炎の成立、そして胃癌発症予防効果を検討した。5週令SPFスナネズミにH.pyloriリコンビナントカタラーゼ蛋白をアジュバントとともに免疫し、その後、採血および胃液を採取、ELISA法により血清lgG抗体および胃液lgA抗体の上昇を確認した。免疫成立を確認した後、胃癌高頻度発生H.pylori菌(TN2GF4株)液を経管的にスナネズミに投与し、さらに10ppmのメチルニトロソウレアを20週間投与し、経時的に観察し、胃癌の発生を評価していたが、検討した72週の10匹のスナネズミでは組織学的に胃癌の発生は全く確認されていない。一方、我々がクローニングしたH.pyloriカタラーゼ遺伝子をカナマイシンカセットに導入しH.pyloriに遺伝子導入し、菌体内でリコンビネーションによりカタラーゼノックアウトH.pyloriを作成し5週令SPFスナネズミ15匹に感染させたが、感染は全く成立せず、カタラーゼは感染成立に必須であることが判明している。したがってH.pyloriリコンビナントカタラーゼ蛋白は感染予防ワクチンとして極めて有用である。