著者
武田 宏司 武藤 修一 大西 俊介 浅香 正博
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.107, no.10, pp.1586-1591, 2010 (Released:2010-10-05)
参考文献数
24

機能性ディスペプシア(FD)治療に用いられる代表的な方剤である六君子湯は,食欲不振に対する効果を手がかりとして,そのユニークな作用機序の解明が進んでいる.六君子湯の作用機序としては,従来,胃排出促進および胃適応弛緩の改善が知られていたが,摂食促進ホルモンであるグレリンの分泌を亢進させることがごく最近明らかとなった.シスプラチンや選択的セロトニントランスポーター阻害薬(SSRI)投与は,消化管粘膜や脳内のセロトニンを増加させ,セロトニン2Bあるいは2C受容体を介してグレリン分泌を抑制することがその副作用の発現に関わっているが,六君子湯はセロトニン2Bあるいは2C受容体に拮抗してグレリン分泌を改善する.六君子湯のグレリン分泌促進作用は,FDに対する効果に関わっている可能性も示唆されている.また,六君子湯は高齢動物の視床下部でレプチンの作用と拮抗することにより食欲を改善させる機序も有しており,今後さらに多くの作用点が見出される可能性が高い.
著者
木村 健 浅香 正博 勝山 努 川野 淳 斉藤 大三 佐藤 貴一 下山 孝 杉山 敏郎 高橋 信一 服部 隆則 藤岡 利生
出版者
The Japanese Society of Gastroenterology
雑誌
日本消化器病學會雜誌 = The Japanese journal of gastro-enterology (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.96, no.2, pp.199-207, 1999-02-05
被引用文献数
17

第二次<I>Helicobacter pylori</I>治験検討委員会が改訂した治験ガイドラインの主な内容は,以下の通りである.<BR>I.除菌の利点と問題点: 利点は消化性潰瘍の再発抑制効果,そして低悪性度胃MALTリンパ腫の改善,かつそれらの医療経済効果である.問題点は薬剤耐性の獲得,および除菌後に新たに生じる疾患があり得ることである.<BR>II.除菌治験の適応疾患: 除菌治験を速やかに行うべき疾患は,現在のところ,胃・十二脂腸潰瘍と低悪性度胃MALTリンパ腫である.<BR>III.除菌薬: 酸分泌抑制薬+抗菌薬2剤の3剤併用療法をfirst-line therapyとする.<BR>IV.存在診断と除菌判定: 存在診断は培養,鏡検,ウレアーゼ試験にて行う.除菌判定は,培養と鏡検に加えて<SUP>13</SUP>C尿素呼気試験を必須とし,血清学的検査法とPCR法を削除する.除菌判定の時期は,治療終了後6~8週とする.
著者
武田 宏司 武藤 修一 大西 俊介 浅香 正博
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病學會雜誌 = The Japanese journal of gastro-enterology (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.107, no.10, pp.1586-1591, 2010-10-05
参考文献数
24

機能性ディスペプシア(FD)治療に用いられる代表的な方剤である六君子湯は,食欲不振に対する効果を手がかりとして,そのユニークな作用機序の解明が進んでいる.六君子湯の作用機序としては,従来,胃排出促進および胃適応弛緩の改善が知られていたが,摂食促進ホルモンであるグレリンの分泌を亢進させることがごく最近明らかとなった.シスプラチンや選択的セロトニントランスポーター阻害薬(SSRI)投与は,消化管粘膜や脳内のセロトニンを増加させ,セロトニン2Bあるいは2C受容体を介してグレリン分泌を抑制することがその副作用の発現に関わっているが,六君子湯はセロトニン2Bあるいは2C受容体に拮抗してグレリン分泌を改善する.六君子湯のグレリン分泌促進作用は,FDに対する効果に関わっている可能性も示唆されている.また,六君子湯は高齢動物の視床下部でレプチンの作用と拮抗することにより食欲を改善させる機序も有しており,今後さらに多くの作用点が見出される可能性が高い.<br>
著者
河野 豊 吉田 純一 浅香 正博 原田 文也 舞田 建夫 川上 智史 江口 有一郎
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.527-530, 2020-10-01 (Released:2020-10-08)
参考文献数
4
被引用文献数
1

We investigated the positive detection rates for hepatitis B surface antigens (HBsAg) and hepatitis C (HCV) antibodies as well as the elevation of AST and ALT in patients who were to undergo oral surgery. Our results revealed positive rates of 1.1% and 1.5% for HBsAgs and HCV antibodies, respectively. Patients older than 40 years had a higher proportion of positive HBsAg or HCV antibody results than did patients younger than 40 years. The rate of AST and ALT elevation was 7.3%. There were some missing data on viral infection in patient referral documents or interview sheets, suggesting a perception gap existed with respect to the seriousness of viral hepatitis among dental doctors and patients. These findings suggest that designating a hepatitis medical care coordinator might help not only in understanding patients' infection status but also in collaborating with hepatologists in the field of oral surgery.
著者
加藤 元嗣 浅香 正博
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.98, no.10, pp.2614-2620, 2009 (Released:2012-08-02)
参考文献数
13
被引用文献数
1

Helicobacter pylori(H. pylori)は生涯に渡って胃粘膜に感染して胃炎を惹起する.慢性胃炎を背景として胃・十二指腸潰瘍,胃癌などの様々な上部消化管疾患が起きる.胃癌は組織型を問わずH. pylori感染粘膜から発生することがほとんどである.高度の萎縮,腸上皮化生,体部胃炎では分化型胃癌が,非萎縮や全体胃炎では未分化型癌の発生が高く,背景粘膜の炎症や萎縮の程度によって,胃癌リスクが異なる.動物実験ではH. pylori除菌が胃癌発生を抑制することが認められ,除菌を早期に行う方が胃癌予防の効果は強い.中国でのH. pylori除菌による無作為二重盲検比較試験では,除菌は胃癌発症を抑制しないとの結果であった.しかし,胃癌の内視鏡的切除後の異時性多発癌をエンドポイントとした無作為化試験がわが国で行われ,H. pylori除菌によって有意に異時癌の発症が抑制された.H. pylori除菌は胃癌の発育進展を抑制すると推測できる.胃癌撲滅のために,H. pylori除菌を基本に据えた施策を早急に計画するべき時期に入ったといえる.
著者
間部 克裕 加藤 元嗣 坂本 直哉 浅香 正博
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.110, no.2, pp.218-224, 2013 (Released:2013-02-05)
参考文献数
26

ペプシノゲン(PG)は,胃底腺で産生されるPG Iと胃全体から産生されるPG IIからなり,約1%が血液中に漏出する.血清PGは胃粘膜の萎縮と相関し,PG I 70ng/ml以下かつPG I/II比3以下がPG法における胃がん高リスクである.胃がんの原因がH. pylori感染であることが明らかになり,PGに血清H. pylori抗体を組み合わせるABC分類が提唱され,胃がんリスク分類が可能となった.H. pylori除菌治療によりリスク例もA群に誤分類されてしまうことが課題である.Cut off値の見直しや除菌後PGなど,除菌治療後のPGについて検討がされている.
著者
仲 紘嗣 杉山 敏郎 加藤 元嗣 浅香 正博
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.41, no.9, pp.2035-2043, 1999 (Released:2011-05-09)
参考文献数
79

上部消化管内視鏡検査後の急性胃粘膜病変(PE-AGML)は日本において1973年頃から指摘されていた.このPE-AGMLの原因は当初,一般のAGMLと同一と思われており偶然にその発症前後を観察したと考えられていた.その後,内視鏡検査によるストレス説,内視鏡挿入・空気注入に伴う胃の過伸展による血流障害説などが主に推測され検討されてきた. 1989年からPE-AGMLとHelicobacter pylori(H.pylori)との関連が検討されはじめ,その発症には主にH.pyloriが関与している多くの研究結果が報告されてきた.加えて,内視鏡機器の洗浄・消毒法の検討もおこなわれ,事実上,PE-AGMLは十分な内視鏡の消毒により激減してきた.したがって今日では,PE-AGMLは内視鏡機器の不十分な消毒によって介在される微生物感染が主因であり,その中でH,pylori感染が中心をなしているのではないかと考えられるようになってきた.
著者
浅香 正博
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.767-771, 1996-05-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
18

最近の報告を総合すると,ヘリコバクター・ピロリ(HP)感染から始まり,慢性胃炎,慢性萎縮性胃炎,腸上皮化生,早期胃癌を経て進行癌に至る胃癌の自然史の流れが急速に解明されつつある.もちろん,胃癌の発生はHP感染のみですべて説明可能という訳ではなく,食事,環境など多数の要因が入り組んで引き起こされると考えられるが,消化性潰瘍の再発と同様に, HPの除菌により胃癌の発生が予防できる可能性も示唆されることより,この方面の研究のますますの発展が期待される.
著者
杉山 敏郎 平山 文博 浅香 正博 穂刈 格
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

H.pyloriは慢性萎縮性胃炎、胃癌の主要な病因と考えられ、その関連性は疫学的、動物実験モデルにより実証されている。我が国のH.pylori感染者は約6000万人と推定されているが、胃癌予防のために全感染者を除菌することは現実的に不可能である。したがって、予防ワクチンの開発は重要である。さらに開発途上国では胃癌患者はいまだ増加傾向にあり、かつ多数の感染者を除菌することは経済的に全く不可能であり、一層、予防ワクチンの開発が必要とされる。本研究ではH.pyloriリコンビナントカタラーゼ蛋白をワクチンとして用い、スナネズミに免疫し、その後、胃癌を高頻度に発症するH.pylori菌株を感染させ、感染の成立、胃炎の成立、そして胃癌発症予防効果を検討した。5週令SPFスナネズミにH.pyloriリコンビナントカタラーゼ蛋白をアジュバントとともに免疫し、その後、採血および胃液を採取、ELISA法により血清lgG抗体および胃液lgA抗体の上昇を確認した。免疫成立を確認した後、胃癌高頻度発生H.pylori菌(TN2GF4株)液を経管的にスナネズミに投与し、さらに10ppmのメチルニトロソウレアを20週間投与し、経時的に観察し、胃癌の発生を評価していたが、検討した72週の10匹のスナネズミでは組織学的に胃癌の発生は全く確認されていない。一方、我々がクローニングしたH.pyloriカタラーゼ遺伝子をカナマイシンカセットに導入しH.pyloriに遺伝子導入し、菌体内でリコンビネーションによりカタラーゼノックアウトH.pyloriを作成し5週令SPFスナネズミ15匹に感染させたが、感染は全く成立せず、カタラーゼは感染成立に必須であることが判明している。したがってH.pyloriリコンビナントカタラーゼ蛋白は感染予防ワクチンとして極めて有用である。