著者
平泉 武志 熊野 宏昭 宗像 正徳 吉永 馨 田口 文人 山内 祐一
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.397-405, 1998-08-01
被引用文献数
1

本研究の目的は, 自律神経機能, 心理・行動特性の面から, 医療環境下と非医療環境下にみられる血圧格差と, 心理的ストレス負荷時昇圧の類似点および相違点を比較することにより, 「白衣現象」の機序を明らかにすることである.対象は, 3回以上の外来受診にて収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上を満たし, 重度の臓器障害を伴わない未治療本態性高血圧症患者86例(年齢20〜75歳, 平均55歳;男性33名, 女性53名)である.非服薬下に外来随時血圧と24時間自由行動下血圧の測定を行い, 随時血圧と昼間(6〜12時)血圧の平均値の差を白衣効果と定義した.次いで, 十分な臥位安静の後に, 無負荷の状態で10分間, 数列逆唱による心理的ストレス負荷状態で6分間, 立位負荷状態で7分間, 血圧とRR間隔を一拍ごとに記録し, 心理的ストレス負荷時昇圧度を評価すると同時に, スペクトル解析により血管支配性交感神経活動と圧受容体反射感受性を評価した.さらに心理テストと半構造化面接を施行し, 種々の心理・行動特性を評価した.以上の自律神経機能の指標と心理・行動特性を説明変数に, 白衣効果と心理的ストレス負荷時昇圧を目的変数としたステップワイズ法による重回帰分析を行った.心理的ストレス負荷時昇圧には, ストレス負荷時血管支配性交感神経活動が正の関連を示したのに対して, 白衣効果には安静臥位時血管支配性交感神経活動が負の関連を示した.一方, 心理的ストレス負荷時昇圧には「神経症傾向」, 「怒り」, 「生活習慣の歪み」が正の関連を, 「タイプA行動」が負の関連を示したのに対して, 白衣効果には「抑うつ」が正の関連を, 「不適応」と「怒り」が負の関連を示した.また, 白衣効果と心理的ストレス負荷時昇圧との間には, 有意な相関はみられなかった.以上の成績から, 白衣現象は自律神経機能, 心理・行動特性のいずれの側面からも, 心理的ストレス負荷時昇圧とは異なる現象であることが示唆された.