著者
平田 幸一 鈴木 圭輔 春山 康夫 小橋 元 佐伯 吉規 細井 昌子 福土 審 柳原 万理子 井上 雄一 西原 真理 西須 大徳 森岡 周 西上 智彦 團野 大介 竹島 多賀夫 端詰 勝敬 橋本 和明
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.166-179, 2020 (Released:2020-08-31)
参考文献数
51
被引用文献数
4

難治性の疾患における持続中枢神経感作と言われる病態の疫学,基礎・臨床的な位置付けさらには患者のケアにむけての研究をまとめた.本総説は厚生労働研究班の各員の研究結果を示したものなので,必ずしもまとまりがない点に限界があるが,今までは疾患縦断的に診断治療がおこなわれてきた難治性疾患における中枢神経感作の役割を横断的にみたという意味でもわれわれの研究の結果は一部ではあるが解明したものといえる.結果として,中枢神経感作は種々の疾患,特に難治性のもので明らかに何らかの役割を呈していることが示せた.さらにその治療法の解明には至らぬまでも,患者ケアに繋がる方略を示せたものと考えられ,今後の研究の基盤となることが望まれる.
著者
福土 審
出版者
公益財団法人 パブリックヘルスリサーチセンター
雑誌
ストレス科学研究 (ISSN:13419986)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.16-19, 2013 (Released:2013-12-20)
参考文献数
20

Irritable bowel syndrome (IBS) is a representative stress-related disorder. Major pathophysiological feature of IBS is brain-gut interactions, which is typically manifested by visceral perception and altered stress response. Visceral pain signal is originated from the primary afferent neuron whose cell body is located in the dorsal root ganglia. In the lamina I of the posterior horn of the spinal cord, the primary afferent neuron switches the pain signal via synapse to the second order neuron. The axon of the lamina I neuron ascends the spinothalamic and spinoreticular tract. The pain signal is spread to the insula, anterior cingulate cortex, and the prefrontal cortices via the thalamus. These are the specific pathway from the gut. The lamina I neuron switches its signal to the amygdala and hypothalamus via parabrachial nucleus. Thus, strong intensity of pain signal and/or low pain threshold cause (s) visceral pain as well as stress response including negative emotion. Clarification of the IBS pathophysiology probably provides keys to disclose the synthetic mechanism of negative emotion. Further research is warranted to solve the processing of normal visceral perception as well as pathophysiology in the central nervous system in IBS.
著者
福土 審
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-6, 2018 (Released:2018-01-29)
参考文献数
20

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)の病態に腸内細菌が大きく関与している可能性が高くなっている.感染性腸炎後にIBSが発症し,IBS患者の腸内細菌組成も健常者と異なる.ストレスは腸内細菌組成を変容させ,粘膜透過性亢進と内臓知覚過敏を招き,IBSの病態に沿った病理変化を起こす.IBS患者の腸内細菌を変容させ,症状が改善する場合には,同時に抑うつを中心とする中枢機能が改善する.IBS患者の糞便中の短鎖脂肪酸の濃度は消化器症状,quality of life,性格傾向にまで影響している.短鎖脂肪酸の種類による健康維持とIBS病態の分水嶺を腸内細菌が左右するモデルが注目される.IBS患者の腸内細菌を脳腸相関に沿ってさらに検討する活動が有望である.
著者
田代 学 鹿野 理子 福土 審 谷内 一彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.88-96, 2005 (Released:2005-04-05)
参考文献数
49
被引用文献数
2 2

現代社会の複雑化とともに,うつ病や不安神経症,心的外傷後ストレス症候群(PTSD)といった多くの精神疾患の患者が増えている.その解決に向けた基礎的・臨床的研究が重要である.ヒトの情動メカニズムを解明するための方法論として,脳イメージングが注目されている.患者の頭部を傷つけることなく(非侵襲的に)生きた脳活動を観察できるのが大きな特長である.核磁気共鳴画像(MRI)を用いて扁桃体や海馬の形や大きさを調べる形態画像研究に加えて,生体機能を画像化する機能画像研究も精力的に行われている.機能画像では,ポジトロン断層法(PET)などを用いた脳血流や脳糖代謝の測定だけでなく,セロトニン,ドパミン,ヒスタミン神経系の伝達機能測定も行われている.研究デザインは,安静時脳画像を健常人と患者群の間で比較するものと,課題遂行中の脳の反応性を観察する研究(脳賦活試験)に分類される. うつ病では,前頭前野や帯状回における脳活動低下に加え,セロトニンやヒスタミンの神経伝達機能の低下がPETを利用した研究で明らかにされている.また海馬や扁桃体の体積減少も報告されている.ストレス障害であるPTSDでも類似した結果が報告されており,うつ病とストレス障害の関連が強いことが推測され,ストレスが様々な精神疾患の発症に関与していることも推測される.精神疾患の発症には性格傾向も強く影響しているといわれている.不安傾向や,自身の情動変化を認知しにくいアレキシサイミアなどの脳イメージング研究がすでに行われている.最近では,セロトニントランスポーターの遺伝子多型とうつ病発症率との関係や,遺伝子多型と扁桃体の反応性の関係なども調べられており,今後,遺伝子多型と脳の機能解剖学が融合される可能性がでてきた.ヒトの情動研究における今後の発展が大いに期待される.
著者
遠藤 由香 庄司 知隆 福土 審
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

過敏性腸症候群(IBS)は代表的な思春期心身症である。成人IBSでは幼児期の虐待などのトラウマが発症リスクの一つと報告されているが、思春期IBSでは発症要因の解明は不十分である。そこで本調査では宮城県内の中学校で疫学調査を施行し、東日本大震災のトラウマ的体験がIBS発症率を増加させ、その影響は年余におよぶという仮説を検証する。疫学調査を施行すべく県教育委員会や養護教諭会に調査協力を依頼したが、教育現場では未だ混乱が続いており、協力を得がたい状況であった。そこで海外の疫学調査専門家と討議を重ね、調査法の変更や規模の縮小をして再度協力を依頼したが、最終的に調査を断念せざるを得なかった。
著者
福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.335-342, 2017 (Released:2017-04-03)
参考文献数
48
被引用文献数
1

ストレスは21世紀の心身医学が真剣に取り組むべき重要な問題である. 過敏性腸症候群 (irritable bowel syndrome : IBS) を代表格とする機能性消化管障害の研究は, ストレス関連疾患を考えるうえで重要な成果をあげている. IBSはストレスにより発症・増悪する内科疾患であり, 代表的な心身症である. IBSは脳からの遠心性信号による小腸・大腸の機能異常の病態を有する. ストレスにより視床下部の室傍核からcorticotropin-releasing hormone (CRH) が放出されると仙髄副交感神経を活性化して大腸運動が惹起される. また, CRHは, 大腸粘膜の肥満細胞を脱顆粒させ, 粘膜透過性を亢進させ, 内臓知覚を過敏にする. IBSの内臓知覚過敏とは, 消化管から中枢へのシグナル伝達の病態である. 中でも, 大腸からの求心性信号による局所脳の変化, 特に, 膝下部前帯状回, 膝上部前帯状回, 中部帯状回, 前部島皮質, 後部島皮質, 扁桃体中心核, 扁桃体基底外側核, 海馬, 視床下部, 背外側前頭前野, 内側前頭前野, 眼窩前頭皮質, 背側線条体, 腹側線条体, 中脳中心灰白質の変化が明確にされてきている. これらは脳領域間結合からの分析も進んでいる. ストレスは腸内細菌の多様性を変化させ, IBSの腸内細菌も健常とは異なっている. IBSは不安・うつ・失感情症に関連することが証明されている. このようなストレスによる機能的変化と心理的変化の背景には, 検出方法を工夫すれば, 器質的変化が存在する. 換言すれば, 心身医学においては, 機能的変化と器質的変化の差異は程度の問題にすぎず, 生体の変化の精密・定量的な測定が鍵である. 重度ストレスはグルココルチコイド受容体遺伝子のプロモーター領域のメチル化を招き, CRHのネガティブフィードバック機構を障害して視床下部-下垂体-副腎軸の病的活性化を招く. IBSは遺伝子環境相関の面でも注目され, 有力な候補遺伝子がCRH受容体遺伝子も含め同定されている. IBSに対する治療法は, 薬物療法と心理療法の根拠が高水準になり, 先進的なニューロモデュレーションが開発されつつある. IBSにおいては, 分子生物学と脳科学からストレスと脳腸相関の法則を得るとともに, 認知行動療法を中心とする心身医学を日常診療に応用することが臨床医の重要な役割になり, これは他領域に応用可能なモデルになると予言する.
著者
町田 貴胤 町田 知美 佐藤 康弘 田村 太作 庄司 知隆 遠藤 由香 福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.1134-1139, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
9

副腎皮質機能低下症は食欲不振, 悪心・嘔吐, 易疲労感など非特異的症状を呈することが多く, うつ病との鑑別が難しい. うつ病を疑われ心療内科に紹介され, 下垂体性副腎皮質機能低下症と判明した3例を報告する. 症例1 : 59歳男性 : 特に誘因なく悪心嘔吐が出現し体重が6カ月で18kg減少, 抑うつ気分や倦怠感がみられた. 一般血液検査, 内視鏡検査, 腹部CTにて異常なしとして紹介された. 低血糖・低ナトリウム血症のほか, cortisol 1.03μg/dl, ACTH<5.0pg/mlと低値, ACTH単独欠損症と判明した. 症例2 : 77歳男性 : 愛犬の死後に抑うつ気分や腰下肢痛が出現, 一般血液検査や腰部X線で異常なく紹介された. cortisol 4.21μg/dl, ACTH 5.7pg/mlと低値, 脳MRIでRathke囊胞を認め, 続発性副腎皮質機能低下症と診断した. 症例3 : 47歳男性 : 東日本大震災で被害を受け悪心嘔吐や倦怠感が出現, 抑うつ気分がみられ一般血液検査で異常なしとして紹介された. cortisol<0.8μg/dl, ACTH<2.0pg/mlと低値, 部分的下垂体機能低下症と甲状腺機能亢進症の合併と判明した. 心療内科において非特異的な身体症状や抑うつ気分を呈する患者には, 一般検査で異常がなくとも副腎皮質機能低下症とうつ病を早期に鑑別すべく副腎皮質機能検査が推奨される.
著者
佐藤 康弘 福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.26-30, 2020

<p>神経性やせ症, 神経性過食症に代表される摂食障害は, 多様な合併症状を呈し, 治療をさらに困難にしている. 神経性やせ症患者では, 極度の栄養不足と脱水から, 肝機能障害, 腎不全, 便秘, 脱毛など, 全身に多様な症状が出現する. 中でも低血糖, 電解質異常に起因する不整脈, 治療介入初期の再栄養症候群は死につながる危険性がある. 成長期における身長増加の停滞, 骨粗鬆症は体重回復後も影響が残る可能性がある. 過食排出型患者では自己誘発嘔吐によるう歯や, 嘔吐, 下剤, 利尿剤乱用による電解質異常が深刻な問題となる. 一方精神面では神経性やせ症でも神経性過食症でも不安, 抑うつなどの精神症状や, パーソナリティ障害の合併を認めることは多く, 治療上の障害となっている. ED患者の治療には, 心身にわたる合併症状への適切な対処が求められる. </p>
著者
岩橋 成寿 田中 義規 福土 審 本郷 道夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.459-466, 2002-07-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
18
被引用文献数
3

自覚されたストレスレベルを測定するPerceived Stness Scale(PSS)を翻訳・改変して日本語版自覚ストレス調査票(Japanese Perceived Stress Scale;JPSS)の開発を試み,一般成入群351名と心療内科患者群65名を対象に,信頼性と妥当性を検討した.α信頼性係数は両群でそれぞれ0.82と0.89であった.JPSS得点の平均値は,患者群において一般成人群に比し有意に高値であった.両群においてJPSS得点と社会再適応スケール(Social Readjustment Rating Scale;SRRS)得点はそれぞれ正の相関を示し,相関係数は患者群で有意に高い値を示した.患者群において,JPSSはSRRSに比べ,精神的自覚症および抑うつ性尺度とより強い相関を示した.JPSSはPSSと同等の信頼性と妥当性を有し,本邦において自覚ストレスを測定する有用なツールになり得ることが示唆された.
著者
金澤 素 福土 審
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.1, pp.17-24, 2013 (Released:2014-01-10)
参考文献数
17

機能性消化管障害(FGID)患者の病態として脳腸相関の異常が想定されている.大腸刺激時の局所脳血流量の変化を観察すると,健常者でみられる前帯状回を中心とした脳領域の賦活がFGID患者ではさらに亢進している事実から,内臓知覚過敏の原因の1つとして脳内プロセシングにおける感作と連合学習が示唆される.脳機能イメージングはFGIDの脳腸相関の病態ならびに治療効果を評価する有力な生物学的指標になりうる.
著者
福土 審 遠藤 由香 金澤 素
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.46-54, 2019-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
20
被引用文献数
1

慢性便秘症においては,偏食,食事量のアンバランス,夜食,睡眠不足,運動不足ならびに心理社会的ストレスが症状の増悪因子であるため,これらの除去・調整を実施する.これらで不十分であれば,食事療法を基本とし,運動療法を加えるが,治療効果が確実なのは適切な薬物療法である.近年,使用可能となった2種類の上皮機能変容薬及び1種類の胆汁酸トランスポーター阻害薬の3種類の薬物は,それぞれ異なる分子を標的としており,エビデンスレベルも高い.それぞれの特性を知り,便秘患者の診療に役立てることが望まれる.
著者
福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.45-52, 2011-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
25

心身医学では,陰性情動がどのように成立するのか,そしてその異常がなぜ生じるのか,という問題が特に重要である.代表的な心身症である過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の病態生理を解くことはこの問題解決につながる.生体に加わった刺激は大脳皮質と皮質下の処理により情動を惹起する.情動にはどんな感じがするかという感情と身体状態である情動状態の2つの成分があり,変化した身体状態(内的感覚)が感覚信号を介して再び中枢に入力される.この刺激の作用点を内臓に置くことにより,内的感覚から情動が生成される根本的な機序を解明できる.健常者の大腸を刺激すると,視床,島,前帯状回,前頭前野の活性化が認められ,同時に腹痛と不快情動が惹起される.IBS患者では同一の刺激に対するこれらの部分の活性化が大きく,腹痛と陰性情動も強い.これらの内臓刺激による中枢処理は個体のもつ性格,遺伝子,先行する強い陰性情動体験によってパターンが異なる.これまでの研究から,島,扁桃体,前帯状回を中心とする局所脳の活性化の程度とセロトニンやcorticotropin-releasing hormone(CRH)などの制御物質が腹痛と陰性情動を決めることが示唆される.次の課題はこれらがどのような回路,細胞,物質の動態により制御されるかを明らかにすることであろう.
著者
町田 知美 町田 貴胤 田村 太作 遠藤 由香 福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.460-466, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
10

14歳, 女児. 11歳から不登校傾向, 対人恐怖が顕在化しA病院精神科に通院開始した. 中学入学頃から食事量も減りはじめやせ願望も明らかになった. 14歳 (中学2年生) になると30kgまで体重が減少したため神経性やせ症 (摂食制限型) と診断され当科に入院した. 入院時は身長149cm, 体重26.6kg, BMI 12.0. 初めは経口摂取カロリーは1日500kcal以下でほとんど体重は増加しなかったが, コミュニケーション能力の低さと対人恐怖のために心療内科的介入は困難だった. 内科的治療を主体とせざるを得なかったが, 行動観察の中で食行動に自閉症的な独特のこだわりがあることがわかった. これを生かした食事の工夫を試みたことで摂取カロリーを1,400kcalまで増やすことができ, 体重は33.5kgに達して退院した. 自閉症スペクトラム合併症例での治療では, 患者特有の特徴を理解したうえで独自の工夫が必要である.
著者
村椿 智彦 金澤 素 福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.341-346, 2021 (Released:2021-05-01)
参考文献数
30
被引用文献数
1

マインドフルネス療法 (mindfulness-based therapy : MBT) は世界的にエビデンスが増加しつつある心身療法である. マインドフルネス瞑想は異常なストレス応答や痛み行動を改善することが知られている. またMBTは過敏性腸症候群 (irritable bowel syndrome : IBS) に特有の認知様式である破局視と消化管特異的不安を改善するため, IBSに対する有望な治療法の1つとして考えられている. IBSに対するMBTはいくつか有望なエビデンスを示しているが研究数が少なく, さらなる研究が求められる段階である. 本稿では, マインドフルネスの定義と実践法, 瞑想の神経生理, IBSに対するMBTの効果, そして瞑想の有害事象について概説する.
著者
佐藤 康弘 福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.790-796, 2017 (Released:2017-08-01)
参考文献数
29

摂食障害の発症, 維持にはストレスが深く関与しており, 対人関係ストレス, 虐待, 喪失体験などが摂食障害のリスク要因として知られている.神経性やせ症 (AN) 患者は認知制御が過剰で, 情動処理の活動が抑制されていることがその病因, 病態に深く関与していると考えられるようになってきた. 対人関係ストレスに関連する不快な語彙を用いたfMRI研究では, AN患者は背外側前頭前野など認知制御を司る領域の活動が亢進し, 一方で失感情症傾向が強いほど情動に関わる扁桃体などの活動が低下していた.われわれは認知柔軟性課題をAN患者に施行したfMRI研究により, 腹外側前頭前野の機能低下を報告している. また, 認知制御と報酬評価の機能を統合した意思決定課題において, AN患者は背外側前頭前野の活動亢進を示した. これらの知見もまた過剰な認知制御による情動処理抑制の証左となる. 摂食障害患者における神経回路の異常がストレス対処行動の異常につながっている.
著者
福土 審
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.6, pp.1220-1227, 2007 (Released:2012-08-02)
参考文献数
16

機能性消化管障害(functional gastrointestinal disorders)は,生物心理社会モデルによる心身医学的なアプローチがその威力を発揮する代表的な疾患群である.その概念形成の源流となったのが過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)である.機能性消化管障害,特にIBSの研究と臨床は,既知の生物学的診断マーカーが未発見である疾患の国際的診断基準作成,脳―末梢臓器相関の概念化,脳機能画像の導入,ストレス病態からの関連物質の絞り込み,炎症と感作の関連,遺伝子と環境の関連,性差医学,薬物療法と心理療法の組み合わせなどの多くの点で他領域に応用できる先進性を含んでいる.
著者
松平 浩 川口 美佳 村上 正人 福土 審 橋爪 誠 岡 敬之 Bernd Löwe
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.931-937, 2016 (Released:2016-09-01)
参考文献数
12
被引用文献数
1

目的 : Somatic Symptom Scale-8 (SSS-8) は, 身体症状による負担感を評価する自記式の質問票である. 今回, SSS-8をわが国へ導入するため, 原作の英語版を翻訳し, 言語的妥当性を担保した日本語版を作成した.  方法 : 原作者から日本語版作成の許可を得た後, 言語的に妥当な翻訳版を作成する際に標準的に用いられる手順 (順翻訳→逆翻訳→患者調査) に従って日本語版を作成した.  結果 : 日本語を母国語とする2名の翻訳者が, それぞれ日本語に翻訳し, 一つの翻訳案にまとめた [順翻訳] . 英語を母国語とする翻訳者が日本語案を英語に翻訳し直した [逆翻訳] . 次に, 原作者との協議を通じ, 原作版と日本語案の概念の整合性を確認し, 日本語暫定版を作成した. 筋骨格系疼痛および身体症状の経験を有す患者5名 (男性2名, 女性3名 ; 平均年齢54.4歳) に調査を行った結果, 全体として, 日本語暫定版の表現に問題はないと判断した.  結論 : 一連の過程を経て, 言語的妥当性が担保された日本語版SSS-8を確定した.