著者
田中 あさひ 新井 康通 平田 匠 阿部 由紀子 小熊 祐子 漆原 尚巳
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.504-515, 2019-10-25 (Released:2019-11-22)
参考文献数
21
被引用文献数
4

目的:本研究の目的は高齢者におけるポリファーマシー,抗コリン作動薬及び鎮静作用薬の使用による薬剤負荷の影響を調査することである.方法:川崎市在住非介護高齢者コホートThe Kawasaki Wellbeing Projectにて2017年3月から12月までに参加した396名を対象とした.ベースライン時の薬剤情報から薬剤数を算出,抗コリン作動薬及び鎮静作用薬に該当する薬剤から対象者のDrug Burden Index(DBI)を算出し薬剤負荷とした.アウトカム指標であるADL,IADL,MMSE,J-CHS,EQ5D5Lについて多変量回帰分析を行い,使用薬剤数又はDBIとの関連性を検討した.調整には性別,年齢,疾患数,教育歴,飲酒歴,喫煙歴を用いた.結果:解析の対象となった389名において年齢の中央値は86歳,男性は48%にあたる187名であった.ポリファーマシーに該当した対象者は243名(62%)であり,DBI該当薬の使用者は142名(36.5%)となった.各アウトカム指標の結果から本集団は身体機能,QOLが高く,フレイルのリスクの低い集団であることが分かった.使用薬剤数はJ-CHS(β:0.04),EQ5D5L(-0.01)と有意に負の関連を示し,DBIスコアはEQ5D5L(-0.04)と有意に負に関連していた.結論:調査結果から本集団は一般的な高齢者と比較すると身体機能及び認知機能の高い健康な集団であることが示された.しかし,ポリファーマシー及び抗コリン作動薬及び鎮静作用薬による薬剤負荷は高齢者のフレイル,QOLの低下と関連していることが示唆された.今後はより大規模で多角的な調査項目を含めた長期間の観察を行うことが望ましい.