著者
平谷 美智夫
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.35-41, 2020 (Released:2020-09-24)
参考文献数
15

DSM-5で限局性学習症に分類される学習困難は読字障害を除いて多くは病態理解に必要なエビデンスや検査方法も乏しく,診断基準もあいまいで治療は教育そのものになることも多く,医療が診断・治療の対象とすることは困難である.発達性ディスレクシア:Developmental Dyslexia DDについて小枝は「症状の普遍性とその背景にある病態の解明,家族集積性や遺伝に関する知見,脳病理所見,予後に関する知見などが明らかになりつつあり,一つの疾患単位として認知されてきておりれっきとした医療の対象となる疾患である」と述べている(稲垣ら,2015; Shaywitz SEら,2019).DDは注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム障害(ASD)を併存する頻度が高い.DDを併存するADHDやASDはDDを併存しないADHDやASDに比べて優位に学業成績が振るわず,特に英語の成績は惨憺たる結果であり,英語教育の在り方を再検討すべきである.対応としては,合理的な配慮(文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針8, 2015)がじょじょに教育現場に浸透しつつあるが,まだまだ不十分でありその効果についてもわが国では充分なエビデンスは得られていない.筆者は,ICTの活用が最も効果的であると考えている.ADHDやASDの合併がないDDでは周囲の理解と支援があり,職業選択が適切であれば自立は難しくはない(平谷,2018).本稿では,LDの中核でありエビデンスがかなり蓄積された読字障害(dyslexia)について,筆者のこれまでの実践経験を紹介する.
著者
鈴木 浩太 小林 朋佳 森山 花鈴 加我 牧子 平谷 美智夫 渡部 京太 山下 裕史朗 林 隆 稲垣 真澄
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.283-288, 2015 (Released:2015-11-20)
参考文献数
18
被引用文献数
1

【目的】自閉症スペクトラム (autism spectrum disorder ; ASD) 児・者をもつ母親において, 養育困難があるにも関わらず, 良好に適応する思考過程を養育レジリエンスと考えて, その構成要素を明らかにすることを目的とした. 【方法】16歳以上のASD児 (者) をもつ母親23名に半構造化面接を行い, 乳幼児期から現在までの子育てについて聴き取りを行った. 音声データから得られた逐語記録を元に修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて質的に分析した. 【結果】5つのカテゴリ, すなわち, ①意識, ②自己効力感, ③特徴理解, ④社会的支援, ⑤見通し, で構成される養育レジリエンスのモデルが想定できた. 発達障害児 (者) の養育において, 母親は親意識と自己効力感によって動機づけられ, 子どもの特徴理解を踏まえて対応策を考え, 社会的支援を活用し, 子どもの特徴や社会的支援に基づき成り行きを見通すことで, 子どもを取り巻く問題に対する適切な対処を導き出していると考えた. 【考察】理論の一般化には更なる検討が必要であるものの, 養育レジリエンスの概念を通してASD児 (者) をもつ母親を理解することが, 発達障害の医学的支援に欠かせない視点になり得ると考えられる.