著者
鈴木 浩太 稲垣 真澄
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3+4, pp.165-171, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
20
被引用文献数
5

【要旨】本研究では、読み書きの困難さを主訴に受診した8歳10カ月男児をMovement Assessment Battery for Children-Second editionにより発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder : DCD)であると診断し、対象児の特性に合わせた漢字指導を実施した。対象児は、知的水準よりも、読み書きの学力が低く、読み書きの困難さがあることが示された。読み書きの困難さの背景に、運動の不器用さと視知覚能力の低下が想定された。そこで、書字表出を最小限にし、良好な認知機能で漢字形態の知覚を補うことを目的として、聴覚法(音声言語化して覚える方法)と指なぞり法(大きな文字を指でなぞる方法)を併用した。漢字指導は、9歳10カ月~10歳10カ月の期間に実施し、小学校3年生の配当漢字を用いた。その結果、対象児は、多数の漢字を習得し、DCD児に対する漢字指導において聴覚法と指なぞり法の併用が有効である可能性が示唆された。
著者
稲垣 真澄 米田 れい子
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.205-216, 2017-04-01 (Released:2019-08-21)
参考文献数
24

限局性学習症/学習障害(learning disorder/specific learning disorder; LD)は全般的知能が正常で, 学習意欲があるにもかかわらず, 「読字」「書字」や「算数」などの特定領域の獲得が障害され, 学業, 日常生活, あるいは職場で著しい支障をきたす発達障害の一つである。中枢神経系の機能異常によるとされ, 近年脳機能画像による解析も試みられている。本稿は, 代表的LDである「発達性読み書き障害」と, 「算数障害」について, それぞれの概念, 診断につながる臨床症状の診かた, わが国で使用可能な検査と診断手順について解説した。前者では問診におけるチェックリストの活用, ひらがな音読検査での読みの評価が, 後者では KABC-Ⅱの習得度評価が役にたつ。的確な教育的支援のために医療サイドができることは, 言語発達に関する詳細な問診, 神経学的診察, 知能評価, 読み書き・算数の基本的能力や子どものもつ認知特性の評価を行うことであると考えた。
著者
小林 朋佳 稲垣 真澄 軍司 敦子 矢田部清美 北 洋輔 加我 牧子 後藤 隆章 小池 敏英
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.465-470, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
20
被引用文献数
3

数字や線画を単独あるいは交互に呼称する課題を通常級在籍中の小学1~6年生207名に行い, ひらがな音読能力との関連を検討した. 数字呼称時間は小学3~4年生まで短縮し続け, 単音音読時間と相関していた. 一方, 線画呼称は学童期の前半で特に短縮変化が目立ち, 以降はゆるやかに変化した. 交互課題はいずれの年齢においても単独呼称より時間がかかったが, エラーがほとんどなく施行できた. 呼称能力はひらがな音読能力と関連性がみられ, 交互課題は単語音読とより強く相関していた. 日本語話者の発達性読み書き障害の病態解明の一助として, 音読異常を持つ小児の数字・線画呼称スピードを今後検討する必要があると思われる.
著者
白川 由佳 北 洋輔 鈴木 浩太 加賀 佳美 北村 柚葵 奥住 秀之 稲垣 真澄
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2302si, (Released:2023-06-24)
参考文献数
59
被引用文献数
1

発達性協調運動障害(DCD)は,協調運動技能の獲得や遂行に著しい困難を示す神経発達症である。本研究では,DCDにおける協調運動障害の神経学的な機序の解明を目指し,遺伝子多型に基づく脳内DA濃度と,運動反応抑制に関わる神経活動の両者が,協調運動機能に及ぼす影響を検討した。成人97名を対象に,DA関連遺伝子多型,運動反応抑制にかかわる事象関連電位および協調運動機能を評価した。その結果,脳内DA濃度の高い場合には,協調運動機能の低下が認められなかった。一方で,脳内DA濃度の低さと運動反応抑制にかかる神経活動の低下が重畳する場合に,バランス機能の低下が認められた。これらの結果は,複数の要因が重畳した場合に,協調運動障害が顕在化する可能性を示唆するものである。
著者
北 洋輔 小林 朋佳 小池 敏英 小枝 達也 若宮 英司 細川 徹 加我 牧子 稲垣 真澄
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.437-442, 2010 (Released:2015-11-21)
参考文献数
13
被引用文献数
2

全般的知能正常で読み書きにつまずきを持つ小中学生98名 (発達性読み書き障害, すなわちdevelopmental dyslexia (DD) 群24名と非DD群74名) に対して, 読字・書字各15項目からなる臨床症状チェックリスト (以下CL) を適用し, ひらがな音読能力を検討した. 信頼性分析の結果, CL各13項目の妥当性が示され, 音読4課題成績との関連性が認められた. DD群は非DD群より多くの臨床症状を有しており, 音読課題の成績低下も顕著であった. 臨床症状が7つ該当し, 音読課題2つに異常がみられる場合, DD群は感度 (79.7%) と特異度 (79.2%) がバランス良く, 非DD群と弁別された. 以上より, DDの医学的診断における本CLの臨床的有用性が示された.
著者
宇野 彰 加我 牧子 稲垣 真澄
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.395-400, 1995-09-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
17
被引用文献数
12

漢字書字に特異的障害をもつ学習障害児の1例について報告した. 本症例は13歳で, WISC-RにてVIQ114, PIQ100と全般的知能は正常であったが, 漢字書字に関しては小学1, 2年生レベルの単語のうち35%しか書けなかった. 認知心理学的には本症例の, 漢字失書の障害機序は字形の想起障害と思われた. また, 複雑図形の記憶再生課題の正答率の低下も認められたことから, 漢字と複雑図形の形態想起障害の神経心理学的基盤は共通である可能性が考えられた. このような症状は, 成人での側頭葉後下部損傷によって生じる漢字の純粋失書例の症状と類似しており, 本症例の責任病巣は側頭葉後下部であると推定した.
著者
堀口 寿広 加我 牧子 宇野 彰 稲垣 真澄 秋山 千枝子
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.349-354, 1999-07-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
11
被引用文献数
4

発達障害児・者を支える家族の精神健康度を調べ, その向上を図るために調査を行った.彼らは高い士気をもって介護にあたっていたが, 一般人口, 専門医師よりも高い頻度で燃え尽きや神経症と呼べる状態にあった.精神的に健康度の高い人は, 子供のことだけでなく子供のこと以外でも配偶者に相談をしており, 介護を手伝ってもらっていた.また, 家族以外に手助けをしてくれる人がいる方が, 精神的な健康度が高かった.施設利用については, 就学前に施設入所を体験した群では周囲への期待感が高かった.したがって, 発達障害医療においては, 家族の協力を軸とした支援が家族の精神保健の向上に大きくつながると考えた.
著者
佐久間 隆介 軍司 敦子 後藤 隆章 北 洋輔 小池 敏英 加我 牧子 稲垣 真澄
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.320-326, 2012 (Released:2014-12-25)
参考文献数
22

コミュニケーション行動の習得にともなう行動変化の客観的な定量評価を目指し, 従来の行動観察法に加えて, 児の頭部方向を二次元平面上に展開する行動解析を行った. 発達障害児4名に, ソーシャルスキルトレーニング (SST) を行い, 前後の行動を比較した結果, ①コミュニケーション行動の増加と, ②ペア活動の相手を中心視野に捉えようとする注目行動の増加が認められた. ヒト位置情報の二次元尺度化は, ソーシャルスキルの治療的介入がもたらす行動における空間的時間的変化の可視化に有用であり, 従来の行動観察法を補う定量評価法の一つとして, 今後の応用が期待される.
著者
宇野 彰 加我 牧子 稲垣 真澄 金子 真人 春原 則子 松田 博史
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.418-423, 1996-09-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
5
被引用文献数
9

漢字書字に特異的な障害を示す学習障害児としては2例目の報告である. 本男児は13歳でWISC-RにてVIQ 1o1, PIQ84と全般的な知能は正常であったが漢字書字は小学校1, 2年生レベルの単語の約20%しか書けなかった. 認知心理学的には既報告例とは異なり視覚的認知機能の異常を認めた. 電気生理学的には視覚性事象関連電位の異常も伴った.本症例は漢字や図形の弁別は可能で再生が困難であったことや漢字音読が可能であったことから, 視覚的認知障害に形態想起障害が加わった可能性が高いと思われた.
著者
髙橋 純一 安村 明 中川 栄二 稲垣 真澄
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3+4, pp.179-187, 2015 (Released:2017-09-26)
参考文献数
20

【要旨】ADHD児に対する新規治療法としてニューロフィードバック (NF) 訓練の中でSCP (slow cortical potential) 訓練を中心に研究紹介を行なった。ADHD児10名のSCP訓練の有効性の検証を行ない、そのうち9名 (ERP指標では8名) が最終的な分析対象となった。訓練前後における神経生理学的指標として、事象関連電位 (ERP) 指標では注意の持続能力に関するCNV振幅を用いた。行動指標では、ADHD傾向を測定できるSNAP-Jが保護者によって評定された。脳波 (EEG) 指標では、SCP訓練におけるセッションごとの陰性方向および陽性方向のEEG振幅の変化を分析した。ERP指標の結果から、SCP訓練前後でCNV振幅の有意な上昇が見られた。一方、行動指標では、SCP訓練前後の評定得点に関する変化は見られなかった。SCP訓練中のEEG振幅については、セッションを経るにつれて陰性方向および陽性方向のEEG振幅の上昇が見られた。CNV振幅は注意の持続を反映することから、SCP訓練によって、対象児の注意の持続に関する能力が上昇したと推測した。以上から、本研究で実施したADHD児へのSCP訓練は一定の効果があったと考えた。また、SCP訓練中のEEG振幅が変容したことから、SCP訓練前後のCNV振幅の変化と訓練中のEEG振幅の上昇との間に何らかの関連が示唆された。
著者
小林 朋佳 稲垣 真澄 軍司 敦子 矢田部 清美 加我 牧子 後藤 隆章 小池 敏英 若宮 英司 小枝 達也
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.15-21, 2010 (Released:2016-05-11)
参考文献数
20
被引用文献数
1

読みの能力の発達を明らかにするため, ひらがな読みに特化した仮名表記の単音, 非単語, 単語, 単文4種類の音読課題を作成し, 通常学級在籍中の児童528名の音読に要した時間, 誤読数を解析した. 時間は全課題とも1年生が有意に長く, 学童期の前半に短縮し, 単音と非単語課題では5年生以降の, 単語と単文課題では4年生以降の変化が少なかった. 単語と単文課題の音読所要時間には強い相関がみられた. 一方, 誤読は全課題で少なく, 最初に読み誤るもののすぐに自己修正されるものや語頭音を繰り返して読むパターンは対象の半数にみられた. 今後は読みのつまずきを有する児童の所見と比較し, 簡便な音読検査としての活用法を検討していきたい.
著者
鈴木 浩太 北 洋輔 井上 祐紀 加我 牧子 三砂 ちづる 竹原 健二 稲垣 真澄
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.368-373, 2012 (Released:2014-12-25)
参考文献数
20

出産から産後約7年6カ月までの縦断的データを用いて, 母親が得た豊かな出産体験が学童期の子どもの行動に与える影響について検討した. 構造方程式モデリングの結果, ①助産所における出産は, 出産体験の豊かさを高める, ②出産体験の豊かさは, 乳幼児期における養育の暖かさを増加させる, ③幼児期での養育が暖かいと, 学童期の子どもの向社会性を増加させ, かつ困難さを減少させる, ④幼児期の子どもの扱いにくさは, 学童期の子どもの困難さを予測することが明らかとなった. すなわち, 学童期の子どもの行動を改善させる要因として, 母親の出産体験の豊かさと養育の暖かさが影響することが示された.
著者
鈴木 浩太 小林 朋佳 森山 花鈴 加我 牧子 平谷 美智夫 渡部 京太 山下 裕史朗 林 隆 稲垣 真澄
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.283-288, 2015 (Released:2015-11-20)
参考文献数
18
被引用文献数
1

【目的】自閉症スペクトラム (autism spectrum disorder ; ASD) 児・者をもつ母親において, 養育困難があるにも関わらず, 良好に適応する思考過程を養育レジリエンスと考えて, その構成要素を明らかにすることを目的とした. 【方法】16歳以上のASD児 (者) をもつ母親23名に半構造化面接を行い, 乳幼児期から現在までの子育てについて聴き取りを行った. 音声データから得られた逐語記録を元に修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて質的に分析した. 【結果】5つのカテゴリ, すなわち, ①意識, ②自己効力感, ③特徴理解, ④社会的支援, ⑤見通し, で構成される養育レジリエンスのモデルが想定できた. 発達障害児 (者) の養育において, 母親は親意識と自己効力感によって動機づけられ, 子どもの特徴理解を踏まえて対応策を考え, 社会的支援を活用し, 子どもの特徴や社会的支援に基づき成り行きを見通すことで, 子どもを取り巻く問題に対する適切な対処を導き出していると考えた. 【考察】理論の一般化には更なる検討が必要であるものの, 養育レジリエンスの概念を通してASD児 (者) をもつ母親を理解することが, 発達障害の医学的支援に欠かせない視点になり得ると考えられる.
著者
稲垣 真澄 加我 牧子 矢田部 清美 後藤 隆章
出版者
独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、通常学級に通う発達性読み書き障害児の学習全般に不可欠な読み書き支援法に関して、認知神経科学的特性を踏まえた上で構築することが目的である。新たに、ひらがな音読検査課題と漢字読み書き課題を開発し、健常小学生の発達変化のデータ集積を行い、発達性読み書き障害診断アルゴリズムを確定した。診断された発達性読み書き障害児の音韻操作能力ならびに語彙能力の把握を行った上で、読み書きの認知神経心理学的モデルにワーキングメモリの要素を加味した支援法を開発し、漢字読み書きの障害例に一定の効果を見いだした。