著者
山下 雅俊 水野 賀史
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.45-51, 2022 (Released:2022-10-15)
参考文献数
22

注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder: ADHD)は不注意,多動性・衝動性を特徴とした神経発達症である.近年,ヒトの脳機能や脳構造を可視化する有力な方法であるMRI(磁気共鳴画像)により,ADHDの神経生物学的基盤の解明が進み,前頭葉,大脳基底核の構造的な成熟の遅れが示唆されてきた.その一方で,これまでのADHDに対する脳機能研究の成果には一貫性が乏しいことも問題点として指摘されている.本稿では,これまで報告されてきたADHDのMRI研究(脳形態,機能的MRI)に関する主な知見をまとめ,最後に,それに続くADHDの神経生物学的基盤の解明に向けた,我々の取り組みについても紹介する.
著者
中山 秀紀 樋口 進
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.11-16, 2020 (Released:2020-09-24)
参考文献数
41

近年インターネットやゲームの依存的使用が重大な問題になっている.特にゲームの問題使用に関しては,インターネットゲーム障害(IGD)や,ゲーム障害(症)として,DSM-5やICD-11の中の診断基準に盛り込まれるようになった.そして思春期世代のIGDが疑われる人は1.2–5.9%の間と推計されている.インターネットやゲームの依存的使用は,注意欠如多動性症や精神症状の悪化,睡眠問題との関連が指摘されている.治療として,認知行動療法などの心理・精神療法や,合併精神疾患(発達障害)に対する治療,また心理療法やアクティビティなどを組み合わせた治療キャンプなども試みられている.特に発達障害やその傾向にある人ではリスクが増大するようであり,保護者等への啓発や療育の役割は大きいと考えられる.子どもたちの健全な育成のために,多くの関係諸機関が連携して予防的,治療的取り組みが進められることが望まれる.
著者
川崎 雅子 坂寄 里紗 加茂 登志子
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.71-78, 2021 (Released:2021-10-14)
参考文献数
25

PCIT(Parent-Child Interaction Therapy:親子相互交流療法)は,1970年代に米国で開発されたエビデンスに基づく心理療法である.I-PCIT (Internet-delivered Parent-Child Interaction Therapy:インターネット親子相互交流療法)は,ビデオ会議システムを利用してセラピストが自宅にいる家族に遠隔でセラピーを提供できるようにしたものである.コロナ禍において,特に発達障害児は,外出制限のあるストレスフルな状況下において問題行動が増加しやすく,それに伴い親の育児ストレスの高まりも危惧される.パソコンやタブレット等の日常的デバイスを用いて遠隔リアルタイムコーチングを行うI-PCITは,コロナ禍でも発達障害児とその親への継続的な支援が可能である.また,親が感じる治療への障壁が少ない点や般化のしやすさ等メリットは多く,発展性は高い.
著者
小林 勝年 儀間 裕貴 北原 佶
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.3-10, 2020 (Released:2020-09-24)
参考文献数
12

療育とは児童福祉の精神に依拠しながらも「不治」という医療の限界を超えた課題に対する教育との架橋的試みから始まり,医療と育成の合成語として誕生した.これまで,医療モデルと生活モデルという異なる障害モデルより療育の目標や方法なども異なる療育が実践されてきた.しかし,今日では人間発達における生物心理社会モデルの浸透などにより生活モデルに集約される傾向にあり,「発達の最適化」が療育の共通目標として認識されつつある.すなわち,発達的可能性をどのように保障しているかという点に注目が寄せられたが,その議論を前進させるのは研究デザインによって位置づけられるエビデンスレベルと療育実践におけるエビデンス検証である.が,こうした包括的アプローチにおいては安易な時間的展望の中で処理されたり,低いエビデンスレベルのまま実践されるという陥穽が用意されていることを忘れてはなるまい.
著者
黒田 美保
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.28-34, 2020 (Released:2020-09-24)
参考文献数
9

自閉スペクトラム症児への早期介入の効果が近年報告されているが,専門家による介入を受けられる子どもの数には限りがあり,コミュニティ全体を包括的に支援することは難しい.この点,早期介入法の1つであるJASPER(Joint Attention, Symbolic Play, Engagement, and Regulation)は,特にコミュニティベースで,また,非専門家である教師等が行える方法として,注目に値する.JASPERは,乳幼児から小学校低学年までの比較的広い対象に連続的に使用できる.プリスクール等の実際に対人コミュニケーションを必要とする生活の場で教師等が実施することにより,心理士がセラピールームで行うのと同じくらいの言語や社会性の発達がみられたと報告されている.教師が実施できる検査SPACE(Short Play And Communication Evaluation)も開発され,子どもの遊びの水準,共同注意,要求行動を簡便に評価すると同時に目標を立てられる.本論では,自閉スペクトラム症の早期支援の概観と,JASPERやSPACEの方略やコミュニティにおける実践について述べる.
著者
松澤 大輔
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.64-70, 2021 (Released:2021-10-14)
参考文献数
29

遺伝子DNAが出生後もエピジェネティックな修飾を受けて発現調節されることが注目されている.DNAメチル化はその1つであり,脳内神経組織のDNAメチル化も様々な外部刺激により後天的に変化がもたらされることが知られてきた.近年では精神疾患においてもその影響を示唆する研究が相次いでいるが,不安や恐怖の記憶が症状に関わる不安症関連精神疾患ではエピジェネティックな現象の関与について現在でも知見は多くない.本稿では,不安関連精神疾患で発症脆弱性や治療抵抗性を示す背景へのDNAメチル化の関与を,筆者の教室で得られた結果を紹介しながら論じたい.精神疾患におけるエピジェネティックな機構は,ストレス応答の変化など獲得した行動の次世代への継承にも役割を果たしている可能性もあり,今回そうした可能性を示唆する結果も得られたので紹介する.
著者
田中 早苗 山田 智子
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.62-70, 2020 (Released:2020-09-24)
参考文献数
44

自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持つ人は,自分や他者に対する理解や相互的なコミュニケーションのやり方がユニークであるがゆえ,様々な社会的な適応場面において困難な状況に直面することが多い.中でも学校という大きな集団の中で,同年代のクラスメイトや仲間との関わりにおいて,友だち作りや友だちとの良好な付き合いを継続することが難しく,孤立しがちである.多くの子どもたちが友だちを作り,社会的な交流を活発に行う際には,友だち作りが成功するための方法,法則があり,またそうするためのモチベーションが存在する.その法則を,ASDの人の学び方に合わせた工夫を盛り込んで共に考え身につけるトレーニングプログラムPEERSがカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で開発され,世界中で実践され,本邦においてもその有効性が実証されている.プログラムの実施方法や参加者が何を学ぶかを筆者らの実践とともに詳説し,今後の展望をまとめた.
著者
田熊 一敞
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.26-33, 2021 (Released:2021-10-14)
参考文献数
33

自閉スペクトラム症(ASD)は,社会性・コミュニケーションの障害,興味の限定・反復的な常同行動を特徴とする発達障害の1つである.近年,母親の妊娠中のウイルス感染,薬物摂取やビタミン不足などによってASDの発症リスクが増大することが示され,薬物摂取に関しては,2000年代後半に「妊娠中の抗てんかん薬服用により出生児のASD発症リスクが増大する」との臨床報告がなされている.本稿では,著者の研究グループがこの臨床知見に着目して作製・確立した“バルプロ酸の胎内曝露によるASDモデルマウス”において見いだした知見を中心として概説し,ASDの病態解明ならびに薬物療法の開発に向けた今後の展望と“基礎研究”の課題について考察する.
著者
村山 千尋 尾内 康臣 千住 淳 山末 英典
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.18-24, 2022 (Released:2022-10-15)
参考文献数
32

自閉スペクトラム症(ASD)の原因や病態はその多くが未解明である.それに対し,陽電子断層撮像法(PET)は,生体内の特定の分子の分布や動態を定量的に測定できる強力な研究手法である.2020年以降,ASDを対象としたドーパミン受容体のPET研究が立て続けに報告されており,ASDの病態へのドーパミン系の関わりが注目されている.本稿では特に,私たちが行ったASDの線条体外領域におけるドーパミンD2/3受容体のPET研究を紹介する.この研究によって,ASD者では,ドーパミンD2/3受容体の豊富に存在する線条体外領域全体でドーパミンD2/3受容体結合能が有意に低下していることが明らかになった.中でも視床枕に相当する視床後部領域で結合能の低下は最大であり,この低下は,ASDの社会的コミュニケーション障害の重症度と相関していた.また安静時機能的MRI研究と組み合わせることにより,この線条体外領域におけるドーパミンD2/3受容体結合能の低下が,ASD者における社会脳領域の安静時機能的結合性の変化に関係していることが明らかになった.
著者
岡 雄一郎 佐藤 真
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.3-9, 2021 (Released:2021-10-14)
参考文献数
16

発達期の脳内において,様々な外的因子の影響を受けつつも,軸索の伸長やシナプスの形成といった過程が調和を保ちながら機能的な神経回路網が形成されることが,健やかなこころの育ちの基盤となる.我々の研究室では基礎的な回路形成の研究と共に,(1)巧緻運動に関わる回路の発達,(2)シナプス部における情報伝達に関わる仕組み,(3)母親のストレスと子どもの脳発達,という臨床とも関連の深い3つのテーマに取り組んでいる.本稿ではそれぞれの概略を冒頭で短く紹介し,残りの紙面で(1)について最近発表した論文の内容を詳しく紹介する.
著者
下野 九理子
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.3-8, 2022 (Released:2022-10-15)
参考文献数
30

非侵襲的で空間分解能が良く,解析方法の技術革新が進んだMRIは自閉スペクトラム症(ASD)の病態解明やバイオマーカーとして良く使われる.しかしASDは“スペクトラム”と称されるとおり,特性の重症度・顕著な症状の個人差が大きく・年齢による変化・環境による変化など多様性に富むことから研究結果にばらつきが生じ,全体像の把握を困難にしている.我々の研究室では1)ASDの協調運動障害,2)小脳構造と運動・認知との関わり,3)計画性や言語理解の障害と白質脳構造の関係,4)攻撃性や問題行動と辺縁系の関係,5)言語認知と白質構造について研究を行ってきた.本稿ではこれらの研究成果を紹介しながら,ASDの病態解明をサブタイプ別に検討することの重要性について論じる.
著者
鎌下 莉緒 平野 好幸
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.38-44, 2022 (Released:2022-10-15)
参考文献数
19

摂食障害では痩せ願望や体重体型への過度なこだわり,ボディイメージの障害といった症状が見られ,「神経性やせ症(Anorexia nervosa: AN)」と「神経性過食症(Bulimia nervosa: BN)」,「過食性障害(Binge-eating disorder: BED)という三つの病型に大別される.有意な低体重が見られるANでは大脳全体の皮質厚および海馬・視床をはじめとした様々な領域の皮質体積が減少することが判明している.また,過食が見られるBNでは報酬系異常により腹側線条体や海馬で健常者とは異なる活性パターンを示すことが脳イメージング研究で明らかにされている.これまで思春期での発症が主とされていた摂食障害だが,近年,思春期以前の低年齢児童における発症が報告されており,摂食障害は「こどもの問題」と捉えられる.死亡率が約5%と高いことやコロナ禍において患者数が急増したと報告されていることから,摂食障害研究は喫緊の課題であると言える.本稿では,摂食障害の病態解明のための脳形態や脳機能画像研究を紹介する.
著者
服部 剛志 堀 修
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.34-40, 2021 (Released:2021-10-14)
参考文献数
24

自閉症病態の研究においては,主に神経細胞の異常が注目されてきたが,近年,グリア細胞(脳における神経以外の細胞)の関与が明らかとなってきた.我々は,自閉症病態におけるグリア細胞の役割を明らかにする為に,グリア細胞における自閉症関連分子CD38の機能解析を行っている.本稿では,CD38がグリア細胞の1種であるアストロサイトに強く発現し,グリア細胞の発達に関与するだけでなく,脳の中の炎症である神経炎症にも重要な役割を持つことを紹介する.
著者
大島 郁葉
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.55-61, 2020 (Released:2020-09-24)
参考文献数
22

自閉スペクトラム症の(ASD)の正しい理解に基づく対処スキルの向上を目的とした介入は乏しい.我々は先行研究を基に「児童思春期の高機能ASD者とその保護者を対象とした認知行動療法(CBT)を用いたASDの心理教育プログラム(Aware and Care for my Autistic Traits: ACAT)」を開発した.本研究はACATの有効性を多施設型ランダム化比較試験によって明らかにする.48名の参加者を24名ずつACAT群および通常治療群に割り付け,ACAT群は,通常治療(通院精神療法)に加え週1回100分のセッションを6週間,10週目にフォローアップセッションを受けた.両群間に対し,効果指標の変化量の比較を行う.主要評価はAutism Knowledge Questionnaireである.本研究は児童思春期のASD者に対するエビデンスに基づく治療戦略に貢献するものと期待される.
著者
中山 秀紀 樋口 進
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.11-16, 2020

<p>近年インターネットやゲームの依存的使用が重大な問題になっている.特にゲームの問題使用に関しては,インターネットゲーム障害(IGD)や,ゲーム障害(症)として,DSM-5やICD-11の中の診断基準に盛り込まれるようになった.そして思春期世代のIGDが疑われる人は1.2–5.9%の間と推計されている.インターネットやゲームの依存的使用は,注意欠如多動性症や精神症状の悪化,睡眠問題との関連が指摘されている.治療として,認知行動療法などの心理・精神療法や,合併精神疾患(発達障害)に対する治療,また心理療法やアクティビティなどを組み合わせた治療キャンプなども試みられている.特に発達障害やその傾向にある人ではリスクが増大するようであり,保護者等への啓発や療育の役割は大きいと考えられる.子どもたちの健全な育成のために,多くの関係諸機関が連携して予防的,治療的取り組みが進められることが望まれる.</p>
著者
平谷 美智夫
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.35-41, 2020 (Released:2020-09-24)
参考文献数
15

DSM-5で限局性学習症に分類される学習困難は読字障害を除いて多くは病態理解に必要なエビデンスや検査方法も乏しく,診断基準もあいまいで治療は教育そのものになることも多く,医療が診断・治療の対象とすることは困難である.発達性ディスレクシア:Developmental Dyslexia DDについて小枝は「症状の普遍性とその背景にある病態の解明,家族集積性や遺伝に関する知見,脳病理所見,予後に関する知見などが明らかになりつつあり,一つの疾患単位として認知されてきておりれっきとした医療の対象となる疾患である」と述べている(稲垣ら,2015; Shaywitz SEら,2019).DDは注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム障害(ASD)を併存する頻度が高い.DDを併存するADHDやASDはDDを併存しないADHDやASDに比べて優位に学業成績が振るわず,特に英語の成績は惨憺たる結果であり,英語教育の在り方を再検討すべきである.対応としては,合理的な配慮(文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針8, 2015)がじょじょに教育現場に浸透しつつあるが,まだまだ不十分でありその効果についてもわが国では充分なエビデンスは得られていない.筆者は,ICTの活用が最も効果的であると考えている.ADHDやASDの合併がないDDでは周囲の理解と支援があり,職業選択が適切であれば自立は難しくはない(平谷,2018).本稿では,LDの中核でありエビデンスがかなり蓄積された読字障害(dyslexia)について,筆者のこれまでの実践経験を紹介する.
著者
小林 宏明
出版者
大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科
雑誌
子どものこころと脳の発達 (ISSN:21851417)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.48-54, 2020 (Released:2020-09-24)
参考文献数
24

近年,発達性吃音のある学齢児の指導(訓練)・支援方法として,子ども一人ひとりの吃音の言語症状,心理症状,周囲の環境などの要因に応じた指導・支援を行う多面的包括的アプローチが支持されている.そこで,本稿では,まず,吃音の症状,出現率,原因論及び,吃音のある学齢児が抱える困難と,多面的包括的アプローチを中心とした学齢期吃音の指導法に関する国内外の動向を概説した.そして,これらを踏まえた筆者の実践である,ことばの教室での実践を想定した「ICF(国際生活機能分類)に基づいた学齢期吃音のアセスメントプログラム」,アセスメント及び指導・支援の効果検証に用いる評価ツールである「吃音のある学齢児の学校生活における活動・環境質問紙」,小中学校における教員の吃音の理解と配慮・支援の普及を意図した「子どもの吃音サポートガイド」の概要と今後の課題を述べた.