著者
平野 智美
出版者
国立音楽大学
雑誌
研究紀要 = Kunitachi College of Music journal (ISSN:02885492)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.135-145, 2017-03-31

ヨハン・セバスティアン・バッハがヨハン・エルンスト公子の依頼によって、最新の協奏曲をクラヴィーア用に編曲したことは広く知られている。クラヴィーアへの編曲は17曲あるが、そのうち6作品がアントニオ・ヴィヴァルディの原曲に由来する。本稿ではこれら6作品のうちヴィヴァルディの協奏曲集《調和の霊感》(Op.3-9)に基づいて編曲されたクラヴィーア曲(BWV972)について現存する資料を整理し、最終稿(BWV972)とヨハン・アンドレアス・クーナウによる写しで伝えられている初期稿(BWV972a)を比較した。バッハが編曲の過程でどのような独自性を追求したのかを考察、分析した結果、編曲技法の特徴である内声の付加やバスの旋律線の強化などの際にも、瞬間的に生まれる音の響きとそれらが連続して織り成す和声を念頭に置いて作曲していること、さらに減衰効果の強いクラヴィーアという楽器で、旋律や和音を持続させるよう試みられていることが明らかになった。