著者
錦見 盛光 幸村 定昭
出版者
(財)応用生化学研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

ヒトはアスコルビン酸生合成経路の最終段階を触媒するグロノラクトン酸化酵素(GLO)を欠損しているため、ビタミンCを合成できない。本研究において、ヒトにおけるGLO欠損の原因を遺伝子レベルで解明することを目指し、次のような結果を得た。ラット肝臓のGLOに対するcDNAをプロ-ブとして用い、種々の動物ゲノムDNAをサザンブロット法で分析した結果、ヒトはGLO遺伝子を持つが、ハイブリダイゼ-ションの強さは、他のGLO活性を有する動物の場合に比して弱いことが分かった。そこで、ヒトとラットのGLO遺伝子を塩基配列の上で比較するため、ラムダファ-ジで作ったヒトおよびラットのゲノムDNAライブラリ-から同遺伝子のクロ-ニングを行い、得られたクロ-ンの塩基配列を決定した。ラットの重りを持つ三つのクロ-ンについて調べたところ、ラットのGLO遺伝子は20キロベ-ス以上の長さを持ち、12個のエキソンと11個のイントロンより構成されることが明らかとなった。また、ヒトの陽性クロ-ンの一つはゲノムDNAのサザンブロットで認められる約12キロベ-スのEcoRI断片を含み、その中にラットのGLO遺伝子の3個のエキソンに対応する塩基配列が見出された。その内一つの配列では、ラットのエキソンの5′側でかなりの部分が欠失していた。108塩基からなるエキソンについてラットとヒトの間で配列を比較すると、ヒトで1塩基の欠失があり、両者の相同性は75%であった。アミノ酸配列で比較すると相同性は64%と低く、しかも変化の大きい置換が数多く認められた。これらの事実は、ヒトのGLO遺伝子が進化の過程で機能を失った後、選択圧を受けることなく変異を蓄積して来たことを示唆する。即ち、ヒトのGLO遺伝子は偽遺伝子の状態でヒトゲノム中に存在していることが判明した。