著者
河野 芳廣 吉田 裕一郎 田村 幸嗣 森山 裕一 牧原 真治 廣兼 民徳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DbPI1341, 2011

【目的】換気力学では呼吸筋、胸腔内圧や肺容量、肺気量分画(全肺気量、一回換気量、肺活量、機能的残気量など)、姿勢、肺胸郭コンプライアンスの弾性仕事に関する要因や気道抵抗、肺、胸郭の組織抵抗の粘性仕事に関する要因などが関わっている。その中で、呼吸理学療法を行う際に、姿勢の変化で肺気量が影響を受けることは、多くの先行研究により認知されている。陽圧人工換気のポジショニングや体位呼吸療法(腹臥位管理)は、換気改善の効果があり、呼吸生理学的根拠があることは周知のとおりである。今回、陽圧人工換気下の状態で、姿勢の変化(ヘッドアップ)が及ぼす影響について、若干の知見を得たのでここに報告する。<BR>【説明と同意】今回の報告は、当院の倫理委員会の承認を受けている。<BR>【対象】溺水にて救急搬送、搬入時咳嗽あるも、胸部X線にて肺の状態不良、酸素化能低下し、時間を待たず気管挿管、ICUへ。ウィーニングで抜管するも、喉頭浮腫にて気道閉塞し、再挿管。その後、肺炎悪化。PCVの陽圧人工換気にて治療継続。陽圧人工換気管理下で換気モードはPCV(PEEP6cmH<SUB>2</SUB>O、RR30回/min、PCの圧above PEEP24cmH<SUB>2</SUB>O、FIO<SUB>2</SUB>80%)servo i (シーメンス社製)【方法】1日1回を3回にわたり、下記測定項目を理学療法前に計測する<BR>・2肢位における1分間の呼吸(分時換気量、一回呼気量、一回吸気量)をモニタしていく<BR>・ベッド上フラット位(ギャッジアップ0度、下肢挙上なし)から電動にて45度ギャッジアップ座位にし、それぞれの換気量を計測する。<BR>【測定項目】呼吸機能:分時換気量(MVe )、一回吸気量(VTi )、 一回呼気量(VTe )、終末呼気炭酸ガス濃度(EtCO<SUB>2</SUB>)、呼吸数(RR)、動的コンプライアンス(Cdyn)、酸素飽和度(SpO<SUB>2</SUB>)、呼吸パターン(I:E等)循環機能:動脈圧(ART)、心拍数(HR)<BR>【結果】パラメータ平均値は、1回目の仰臥位;MVe7.20±0.02 L/min、VTi238.35±2.33mL,VTe239.23±2.60mL から、45度坐位MVe5.22±0.04 L/min、VTi165.65±4.74mL、VTe171.12±5.13mLと低下、2回目の仰臥位;MVe7.30 L/min、VTi261.50±2.40mL、VTe261.88±1.93mL から、45度坐位MVe5.35±0.05 L/min、VTi200.00±3.66mL、VTe190.27±3.29mLと低下、3回目の仰臥位;MVe6.82±0.04 L/min、VTi259.96±2.49mL、VTe273.27±1.61mL から、45度坐位MVe4.41±0.03 L/min、VTi180.07±4.62mL、VTe175.96±3.11mLといずれも換気量の低下がみられた。<BR>・1、2、3回目における2条件(仰臥位、45度坐位)はいずれも、45度坐位において換気量の低下がみられ、(Wilcoxonの符号付き順位検定)P<0.01で有意差があった。<BR>・Cdynは1,2,3回目いずれも仰臥位は10.4~11mL/cmH<SUB>2</SUB>O、45度坐位は6.3~7.5mL/cmH<SUB>2</SUB>Oと低下した<BR>・EtCO<SUB>2</SUB>は仰臥位では47~57mmHgで45度坐位では64~76mmHgと上昇した。<BR>・姿勢変化時;酸素化能の変化としてSpO<SUB>2</SUB>値は、一回目に97%から93%に低下、2回目は95%から94%、3回目は97%から96%に低下した<BR>【考察】圧規定換気設定の気道内圧は、気道抵抗と肺胸郭コンプライアンスの大、小により、換気量を反映することになる。気道抵抗が大きいほど、肺胸郭コンプライアンスが小さいほど、換気量は減少するということになる。単に、肺胸郭コンプライアンスが小さくなったこともあると考えるが、それに、仰臥位から坐位時に、安静呼気位レベル(FRC)自体が上がり、結果的に気道内圧に影響し、換気量が変化したと考えられるのではないかと推測した。<BR>【理学療法学研究としての意義】陽圧人工換気下では量・圧規定換気や補助換気の付加など、病態にそって設定を変更させる。よって、同条件下での症例が重ねにくい中で、今回は換気量を測定することができた。陽圧人工換気下で、酸素化能の向上、換気改善目的の姿勢アップや呼吸手技を実施する際にはモニターしながら、圧損傷にたいして十分に注意できるようにする必要があることが理解できた。<BR>