著者
木村 直人 寺尾 由美子 鏡味 芳宏 東峯 万葉 廣澤 麻里 岡部 直樹 新宅 勇太 伊谷 原一
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.33, pp.59-60, 2017

<p>日常的な動物園飼育下サル類の栄養評価は,飼育員の観察眼に頼った主観的評価となることが多い。客観的な評価法としてよく用いられるのは体重測定であるが,栄養評価に重要な体脂肪率は分からない。体脂肪率の測定法にはCTやDEXA等があるが,いずれも機器が大型であったり高価であったりするため動物園では実用性に乏しい。本研究は簡易で安価,かつ客観的な栄養評価を実施するためイヌ用の体脂肪計が応用できないか検討するとともに,体サイズやサル種によって標準的な体脂肪率に違いがあるか否か調べることを目的とした。検査や治療等の目的で麻酔をかけられ不動化された個体のうち,体重600g以上のリスザルからチンパンジーまでを対象とし,測定部位に外傷や皮膚疾患のないこと,消毒用アルコールに対する過敏症をもっていないこと,妊娠または授乳中ではないことといった諸条件を遵守した。①体重測定,②ボディーコンディションスコア(以下BCS)評価,③身体計測,④皮厚計測,⑤伏臥位にてイヌ用体脂肪計(花王ヘルスラボ犬用体脂肪計IBF-D02®)を用いての体脂肪率測定,⑥獣医療上必要に応じて実施される血液検査の6項目を実施した。結果,キツネザル科からヒト科までの20種86頭から90件のデータを得た。体脂肪率の最低値は10%未満(マントヒヒ♂),最高値は30.7%(カニクイザル♀)であった。体脂肪率の測定は1分ほどでできた。皮厚値と体脂肪率,BCSと体脂肪率の間でそれぞれ正の相関傾向が見られ,イヌ用体脂肪計がサルの体脂肪率測定に応用可能であることを確認した。皮厚値と体脂肪率の散布図における象限分析の結果,体サイズ別で標準的な体脂肪率に差が出る傾向がみられた。このことはサル類において体サイズごとに標準の体脂肪率が異なる可能性を示唆している。イヌでも犬種ごとに標準体脂肪率が異なることが知られているので,今後はデータ数を増やしてサル種ごとの標準体脂肪率を求めていきたいと考えている。</p>