著者
廣瀬 悦子
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A, 教育研究 (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.159-168, 2003-03

本研究の目的は,日本語否定疑問文がどのようにその言語的意味から実際の解釈が導き出されるのかを明らかにすることである.既存の研究では,様々な用法を分類し,コミュニケーションにおける役割の観点から分析したものが主流であると思われる.本研究では認知的な視点から,聞き手はどのように否定疑問文からその背後にある話し手の意図を理解するのか,関連性理論を用いて分析した.その結果,ひとつの言語形式により示される意味論的意味はひとつで,多様な解釈は発話理解における次の段階で決定されることが明らかになった.次の段階とは,(1)非言語的情報を用いて推論を行い,言語化された意味を命題へと発展させる段階,(2)こうして得られた命題と,非言語的情報を用いた推論から,発話者の意図(暗意)を引き出す段階である.つまり,否定疑問文の言語情報から唯一得られる言語的・意味論的意味と聞き手が入手可能な非言語情報を用いた推論の関係によって,コンテクストに最もふさわしい解釈が引き出されることになる.