著者
有田 要 玉置 元 堀田 博 奥山 清一 志村 豁 井口 喬 遠山 哲夫 堀田 和一
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.213-227, 1983

分裂病者同士の結婚についてはいまだまとまった研究報告はみられない.昭和大学付属烏山病院において, 1979年9月30日現在, 10年以上にわたって診療を続けている長期経過の分裂病者501例のなかで, 結婚したのは7組 (すべて恋愛結婚) である.そのうち5組が結婚生活を継続しており, 2組が離婚となっている.経過年数は3年から15年である.今回われわれはこれらの病者夫婦をとりあげ, 分裂病者同士の結婚について主として長期経過の病状とのかかわり (欠陥の程度) を中心に考察した.欠陥の程度については精神症状, 社会適応状況, 社会生活能力についてそれぞれ良好, 中間, 不良の3段階に区分したがいずれにしろこれら3項目は相関している.1) 夫の平均は良好群に属し妻のそれは中間群であるが, 夫はいずれにおいても妻と同程度, もしくはそれ以上の安定した能力を保持している.2) 結婚の成立および維持については夫婦単位でみた時, 中間ないし良好の状態に位置しているが, 必ずしも個々が上記の状態に位置する必要はなく, 不良群に属する妻とのペアで結婚生活を維持している例も存在する.3) 夫および妻ともに前記3項目の評価が中間に属する場合でも治療者や周囲の者の濃厚な援助や指導があれば, 結婚生活は維持できる.4) 結婚後3項目の評価が変動 (悪化) した場合は, 治療者のより積極的な介在が必要である.しかしそれが著しい場合は維持が困難である.5) 病状や生活能力等からも出産育児については相当に困難をともなう.6) 子供への遺伝については未解決な問題も多く, 慎重な配慮と指導が必要である.
著者
志村 豁
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.481-492, 1983-08-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
21

精神病者の自殺に関し, 諸家の報告があるが, 開放管理下の自殺についてのものはない.現下, 精神医療は開放療法, 地域医療の時代にあり病者の生活圏は拡大している.この状況下で精神病者の自殺の実体を知ることは自殺防止の観点からも重要なことである.昭和大学烏山病院における開放療法20年間の在院者の自殺28例 (うち分裂病25例) 通院者の自殺36例 (うち分裂病20例) であった.本研究では分裂病の自殺例について年齢, 季節, 開放体制との関係, 自殺の場所, 手段, 動機について分析, 検討した.正確なデータはないが, 一般に精神病者の自殺率は一般人 (0.015~0.02%) の20倍あるいはそれ以上という報告に比べると当院在院者のうち10数%に自殺未遂歴のある者が年々漸増しているにもかかわらず, 自殺者は調査期間中年間0~2名とかなり少い.自殺者の年齢は20歳~30代に多く, 罹病期間でみても5年未満と15年未満に多い.これは分裂病の初発時の不安定期と, 妄想型, 緊張型の発病時期, 再発型分裂病の自殺が関連している.閉鎖体制から開放体制となり生活圏が拡大しても自殺数は変らなかった.開放療法当初に, 閉鎖病棟での自殺が見られたが, 開放体制の完成した昭和42年以降は閉鎖病棟での分裂病の自殺は0である, 季節との関係については, 春秋が多いとされる一般の自殺が分裂病の場合は特徴はみられなかった.自殺時間では開放病棟の場合は昼間帯に多く, 閉鎖体制の病院との違いを示し, 自殺場所については, 開放下では外出, 外泊の盛んな関係もあり院外の自殺が多く, 手段は交通機関, 墜落などがみられた.これは死を決した病者がおかれた環境下で選べる手近で確実な手段を実行した結果であり, 閉鎖環境の縊死の多いのとの差が見られた.手段と年齢, 疾病とには特徴的関係はない, 自殺の動機は (1) 精神病状による自殺 (2) 了解可能な自殺, (3) 了解不能な自殺に分類した.通院者の自殺は, 1例の了解可能な自殺以外は精神病状による自殺で地域での治療体制が重要なポイントであることが明らかとなった.精神症状の改善により自殺の危険性は減ずるが, 了解可能な自殺例では家族をはじめ病者をとりまく人々の協力が重要であり, 了解不能な自殺は病者の直前の言動を分析すると何らかの「自殺のサイン」がみられ, 看過することなく対応することが最重要であることが判る, なお, 今回の調査以降, 烏山病院のデータによると自殺事故はない, 他方, 外来通院者の自殺事故が増加する傾向にあることは地域精神医療の重大なテーマであろう.