著者
成本 忠正 松浦 直己
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.13-25, 2023-03-30 (Released:2023-03-25)
参考文献数
41
被引用文献数
1

注意欠如・多動性障害(attention deficit/hyperactivity disorder: ADHD)を抱える児童・生徒は視空間情報の処理と保持を同時に遂行する能力である視空間性ワーキングメモリ(visuospatial working memory: VSWM)が定型発達児よりも弱い。問題解決や心的創造などを伴う高次認知課題の遂行では,言語情報だけではなく視空間情報あるいは心的に生成した視覚イメージを保持しながら別の処理を遂行することや,保持内容に心的操作を加えて変化あるいは複雑化した視覚イメージを保持することが求められる。しかし,ADHD児における後者の保持能力に関しては研究されていない。本研究では,視空間短期記憶能力および心的操作によって複雑化する視覚イメージの保持能力においてADHD児と定型発達児で差が認められるのかを検討した。実験の結果,視空間短期記憶課題における両群の成績に差は認められなかったが,VSWM課題の成績に有意な差が認められた。これは,ADHD児の視空間短期記憶に問題はないが,心的操作によって変化する視覚イメージを保持する能力に問題があることを示している。本研究はADHD児のVSWM能力に関して新たな知見を提供したと言える。