著者
村川 雄規 戸崎 晃明 福田 道雄 太田 昭彦
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第103回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.74, 2010 (Released:2010-08-25)

【目的】フンボルトペンギンの配偶システムは一夫一妻制(monogamy)とされるが、つがい外交尾を行うことが確認されており、その配偶システムはより複雑である可能性がある。本研究では、分子遺伝学的な手法による家系解析を用いて、飼育下でのこの種における配偶システムの詳細を解析した。【方法】新規に開発した親子鑑定のための15個のマイクロサテライトマーカー(総合父権否定確率 0.999998)を用い、葛西臨海水族園の飼育群のうち、行動学的に推定した48家族(両親のべ85羽、雛のべ123羽)の遺伝子型を比較検討し、家系解析を行った。【結果】雛123羽のうち122羽(99.2%)においてその遺伝子型において親子関係に矛盾が生じなかった。残る1羽(0.8%)No.328においては、推定された70♂と129♀の両親のうち、70♂との遺伝子型に矛盾が生じた。そこで、70♂以外の父親候補となりうる全ての雄個体との間で解析を行ったところ、No.328は180♂を父親とするつがい外受精の雛であることが強く示された。頻度自体は低いものの、つがい外受精が確認されたことから、飼育下におけるフンボルトペンギンは社会的monogamyではあるものの厳格な遺伝的monogamyとはいえないことが明らかとなった。また、フンボルトペンギンは絶滅危惧種の一種であり、ワシントン条約により国際商業取引が禁止されているため、今後飼育群に野生個体を加えることは極めて困難である。したがって、飼育施設では限られた個体数の中で、遺伝的多様性を維持しつつ継代・繁殖を続けていかねばならない。そのため個体間における血縁関係の正確な把握が重要となる。したがって、分子遺伝学的な手法を用いた家系解析は、配偶システムの解明のみならず、種の保全の観点から極めて有用であると考えられる。