- 著者
-
戸田 勝巳
- 出版者
- 高知大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2005
エストロゲン合成遺伝子欠損マウス(Ar^<-/->マウス)とエストロゲン受容体α遺伝子欠損マウス(ERα^<-/->を用いてエストロゲンの精巣における生理作用を解析した。Ar^<-/->マウスとERα^<-/->マウスはともに精子形成に異常を呈する。しかしERα^<-/->マウスでは2ヶ月齢で異常が観察されるのに対して、Ar^<-/->マウスでは5ヶ月齢を過ぎないと病態が現れないという違いが見られる。Ar^<-/->マウスを17β-estradiol(1ppm)を混入した餌で飼育すると精子形成の異常を完全に抑制できることから、精子形成が正常に進行するためには、あるいはそれを維持するためにはエストロゲンの作用が必要であると考えられる。そこで、エストロゲンが作用する生体部位を解析した。ERα^<-/->マウスでは精巣輸出管における精巣分泌液の再吸収機能の障害が原因で輸出管腔が拡張することが報告されている。 Ar^<-/->マウスで解析したところ、そうした形態的な変化は観察されず、精巣輸出管の機能と精子形成の障害との間には相関関係は見られなかった。 精巣輸出管の微細構造を解析したところ、ERα^<-/->マウスの輸出管には細胞内で小胞のリサイクルに関係しているapical tubuleが存在しないことが判った。このことから、精巣輸出管の上皮細胞でERαは小胞のリサイクルの制御をとおして分泌液の再吸収機能をコントロールしていると考えられる。また、その機能発現にはエストロゲンが不要であると解釈しなければならない。エストロゲンの欠乏が原因で、精子形成異常を起こす分子機構を明らかにするためには、野生型マウスと精子形成が形態的に正常な時期のAr^<-/->マウスの精巣で発現量に差のある遺伝子群を同定することが必須と考えらる。