著者
戸田 博也
雑誌
千葉科学大学紀要 = The University Bulletin of Chiba Institute of Science (ISSN:18823505)
巻号頁・発行日
no.9, pp.23-34, 2016-02-28

イスラム教スンニー派過激派武装集団である「イスラム国」(IS)(以下、「イスラム国」とする)は、国際法上の「国家」と見なしうるのか。国際法上「国家」であると言うためには一定の成立要件が必要となる。まず、国際法上の国家の成立要件を論じる際に、多くの教科書や論文で引き合いに出されるのが、1933年の「国家の権利義務に関するモンテヴィデオ条約」第1条である。同条は、「国際法上の人格としての国はその要件として、(a)永続的住民、(b)明確な領域、(c)政府、及び(d)他国と関係を取り結ぶ能力を備えなければならない」と規定する。多くの日本における国際法の教科書が、この(a)から(d)の「4つの要件」を、諸国家に受け入れられた一般的な要件としている。ところで、国家領域の一部が分離独立する等により新国家が成立するという文脈で、「国家」になろうとする実体に対して、既存の国家による国家承認が行われる。既存の国家は国家承認を行う場合、当該4要件に従って判断することになるのであり、4要件を詳細に熟知しておく必要がある。ところが、日本の国際法学者による論文や教科書では、この4要件についてあまり詳細な議論がなされてきていない。したがって、本稿では、この4要件について詳細な分析・検討を行う。さらに、「イスラム国」は上記4要件を満たした存在なのだろうか。それとも、満たしていないのだろうか。この点も、考察の対象とする。本稿における検証の結果、以下のことが指摘できる。イスラム国は、モンテヴィデオ条約が示す国家の4要件、すなわち、①永続的住民、②明確な領域、③政府(実効的支配を行う政府)、④他国と関係を取り結ぶ能力(外交能力)、という要件から判断した結果、①と②の要件は満たしているが、③と④の要件は満たしていないと判断しうる。したがって、「イスラム国」は国際法上の「国家」ではないという結論に至る。
著者
戸田 博也
出版者
千葉科学大学
雑誌
千葉科学大学紀要 (ISSN:18823505)
巻号頁・発行日
no.9, pp.23-34, 2016-02

イスラム教スンニー派過激派武装集団である「イスラム国」(IS)(以下、「イスラム国」とする)は、国際法上の「国家」と見なしうるのか。国際法上「国家」であると言うためには一定の成立要件が必要となる。まず、国際法上の国家の成立要件を論じる際に、多くの教科書や論文で引き合いに出されるのが、1933年の「国家の権利義務に関するモンテヴィデオ条約」第1条である。同条は、「国際法上の人格としての国はその要件として、(a)永続的住民、(b)明確な領域、(c)政府、及び(d)他国と関係を取り結ぶ能力を備えなければならない」と規定する。多くの日本における国際法の教科書が、この(a)から(d)の「4つの要件」を、諸国家に受け入れられた一般的な要件としている。ところで、国家領域の一部が分離独立する等により新国家が成立するという文脈で、「国家」になろうとする実体に対して、既存の国家による国家承認が行われる。既存の国家は国家承認を行う場合、当該4要件に従って判断することになるのであり、4要件を詳細に熟知しておく必要がある。ところが、日本の国際法学者による論文や教科書では、この4要件についてあまり詳細な議論がなされてきていない。したがって、本稿では、この4要件について詳細な分析・検討を行う。さらに、「イスラム国」は上記4要件を満たした存在なのだろうか。それとも、満たしていないのだろうか。この点も、考察の対象とする。本稿における検証の結果、以下のことが指摘できる。イスラム国は、モンテヴィデオ条約が示す国家の4要件、すなわち、①永続的住民、②明確な領域、③政府(実効的支配を行う政府)、④他国と関係を取り結ぶ能力(外交能力)、という要件から判断した結果、①と②の要件は満たしているが、③と④の要件は満たしていないと判断しうる。したがって、「イスラム国」は国際法上の「国家」ではないという結論に至る。
著者
戸田 博也
出版者
総合危機管理学会
雑誌
総合危機管理 (ISSN:24328731)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.78-83, 2019-03-11 (Released:2019-12-10)

本稿は、国際法とは、いかなる視点から説明すれば多くの人たちに正確な認識を持ってもらえるのか、という問題意識から、クライシスマネジメントとリスクマネジメントの視点を導入して国際法のあり方を説明しようと試みたものである。国際法は、クライシスマネジメントに重心を置いた法分野と見ることができるが、実はリスクマネジメントの法的枠組の拡充が求められている。すなわち、リスクマネジメントの法的枠組としての「紛争の平和的解決」(交渉、国際裁判等の手段による解決)が充実し紛争がそこで収まれば、クライシスマネジメントの法的枠組である「紛争の強力的解決」(安全保障の枠組、すなわち、経済制裁、武力制裁等の「力」による解決)の出番はない。紛争当事国が紛争の平和的解決の各手段をどのように使えば、紛争当事国間で納得のいく解決に導くことができるのかという部分の法政策学的構築が必要である。通例、国際法の教科書では、紛争の平和的解決の各手段を提示するのみで、その各手段の使い方、運用の仕方についての説明は皆無である。国際法学の浸透・進化のためには、クライシスマネジメントならびにリスクマネジメントという視点を取り込んだ法構築を行うことが不可欠であり、とりわけ、紛争の平和的解決の分野を筆頭に、リスクマネジメントの法的枠組と見ることができる国際法の諸分野の拡充が急務である。