著者
澤田 知香子 戸田 由紀子 原田 寛子 原田 寛子
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

現代の英語圏文学における女性のイメージを「変身」というテーマに着目して考察した。多岐にわたる文学テクストの中の女性のイメージを詳細且つ広範に見直し、現代における新たな女性の表象を生みだす試みや可能性を探った。研究期間内の成果として四編の論文を発表し、学会で二度の口頭発表を行った。加えて、もう一編の論文が現在審査中である。また、本課題研究の内容を学生向けに編集し、専門教育の場で活用できる資料を整えた。
著者
戸田 由紀子
出版者
椙山女学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、トニ・モリスンの小説が「母性」の言説をどのような政治的レトリックとして用いているかを、「共和国の母」の理念と「近代母性のイデオロギー」といった19世紀に大量生産された「母性」の言説と、黒人女性との歴史的関係を踏まえて考察した。公民権とフェミニズムを経た現代黒人文学では、黒人女性たちの多様な「母性」を自己定義することができるようになった。しかしその一方で、奴隷制や人種間の非常にデリケートな問題を扱う場合には、白人の「近代母性のイデオロギー」が戦略的に用いられていることを分析し、人種とジェンダーの問題が根強く残るアメリカ社会をモリスンの小説が提示しながら批判していることを論じた。
著者
戸田 由紀子
出版者
椙山女学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、20世紀初頭の黒人女性文学における「母性」の表象に着目し、その前後の時代の黒人女性文学における「母性」の表象と比較分析することによって、アメリカ黒人女性文学における「母性」の戦略の在り方を、その歴史的変遷を通して明確にすることである。24年度はハーレム・ルネサンス期における黒人女性作家の作品に焦点を当て、黒人女性や母性がどのように表象されているかをジェシー・フォーセット、ネラ・ラーセン、ドロシー・ウェストの作品を中心に考察を行った。これらハーレム・ルネサンス期の黒人女性作家の小説に描かれる黒人女性の表象の考察を通して、従順愚鈍なマミー、放埒なイゼベル、悲劇のムラータといった19世紀末に黒人女性に課せられたさまざまな因習的ステレオタイプにも、それを払拭するために用いられた当時の理想的な黒人女性像にも当てはまらない、複雑な黒人女性像を提示できることを明らかにした。23年度に考察したように、19世紀末には、高潔で愛情溢れる「啓蒙された母親」が重要な役割を果たすのだとフランシス・ハーバーら活動家によって主張され、Women's Club Movementを始めとした社会運動/組織を通してこのような黒人母性のイデオロギーが普及していた。20世紀初頭のハーレム・ルネサンスは男性主流の運動であったことは周知の通りであるが、高潔で母性的な黒人女性像は引き続きハーレム期の黒人男性リーダーや芸術家によって作品や活動を通して推奨、普及されていた。しかしハーレム期の黒人女性作家は、ハーレム期に推進されていた「真の黒人母性像」の型にはまるのではなく、黒人女性の暮らしにさまざまな制限のあった20世紀初頭で、自己矛盾し続け、家庭の閉塞感に抵抗しつつもそこから抜け出すことができない複雑な黒人女性を描き出している点において評価できる。またそれは母性を前面に押し出すことで政治的戦略として用いた19世紀末や、1970年代以降の現代黒人女性文学とは異なっており、本研究ではその重要性を明らかにした。