著者
戸田 聡一郎
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.4-11, 2011-09-25 (Released:2017-04-27)

本稿では、日本に特異的な植物状態の診断基準(遷延性意識障害)を手がかりとして、その診断基準が世界的な臨床実践にいかに寄与できるかを考察する。日本独自の遷延性意識障害の枠組みに立てば、欧米の基準で無視されがちな、意識の有無が疑われる患者に対しても均一なケアを提供し、いまだその病態の本性に謎の多い最小意識状態(MCS)の疫学的データ収集に貢献できる可能性がある。しかしながら、実際の日本の臨床の体制は、そのような強みを生かせるものではない。加えて、理想的なケア体制を構築するためには、資源配分に関する深刻な問題を解決しなければならない。本稿は具体的かつ現実的なケア体制を考える際に、考察の前提となるべき論点を取り上げる。すなわち、(1)「植物状態」なる用語が喚起する固定化されたイメージの改訂、および(2)理想的なケア提供に向けて考慮すべき「正義」や「意識」といった諸概念の考察、である。
著者
戸田 聡一郎
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.142-148, 2008
参考文献数
12

遷延性植物状態(PVS)はその診断基準の難しさと同時に患者とのコミュニケーションが困難であるという理由から、様々な倫理的問題を引き起こしてきた。しかし最近、植物状態と診断されたにもかかわらず、実は意識を持っている患者がいることを示唆する研究が報告された。本稿ではこの研究結果を検証し、実験で使用されたパラダイムが特に臨床応用において問題を表出させることを示す。さらにこの問題を解決させるための新たな実験パラダイムを提唱する。この新しいパラダイムは、将来患者とのコミュニケーションを図る方法を構築する上で重要な役割を担う可能性をも持つであろう。重要なのは、科学的に検証可能な問題が、科学のサイドからではなく、臨床倫理の側面から提起されるということである。この考察により、神経倫理学における新たな方法論が存在することが強く示唆される。