- 著者
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宇田川 俊一
戸矢崎 紀紘
- 出版者
- 日本食品微生物学会
- 雑誌
- 日本食品微生物学会雑誌 = Japanese journal of food microbiology (ISSN:13408267)
- 巻号頁・発行日
- vol.17, no.3, pp.163-169, 2000-09-30
- 被引用文献数
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オーストリアから輸入されたチョコレートを汚染していた白色菌糸状のカビは, 分離した菌株の生育性状・形態観察の結果から, わが国では未報告の<I>Chrysosporium farinicola</I>と同定された.<I>C.farinicola</I>の有性時代 (テレオモルフ) は子のう菌類ハチスカビ目の<I>Bettsia</I>属とされている.しかし, ハチミツなどの天然基質を含む培地など5種類の培地を使用して培養したが, 子のう胞子の形成は認められなかった.<BR>本菌は麦芽エキス・酵母エキス・50%グルコース寒天培地 (MY50G, A<SUB>w</SUB>0.897) 上でよく生育し, 多量の分生子を形成, 白色, 粉状の集落となった.本菌の生育至適温度は30℃, 最低生育温度は15℃, 最高生育温度は37℃ 付近であった.また, pH3~9の範囲で生育した.<BR>本菌の耐熱性試験では, 65℃, 1分間の加熱処理でも生残率80~100%を示し, 死滅温度は65℃, 5分間であったため, 比較のために用いた子のう胞子を形成する好乾性糸状菌 (<I>Eurotium spp., Monascus lunisporas</I>) ほどの耐熱性はなかった.しかし, 薄壁の分生子を形成する<I>Aspergillus spp., Wallemia sebi</I>のような好乾性の不完全菌と比較すると, 厚壁の分生子を形成するために熱抵抗性が強かった.したがって, 本菌は水分活性の低い加熱食品の場合でもその熱抵抗性が事故原因となる可能性があり, その制御には70℃ 以上での十分な加熱殺菌が必要であると結論された.<BR>本菌の生育性状, チョコレートを用いた再現性試験の結果とこれまでの外国からの報告を重ね合わせて見ると, 甘味菓子類, 蜂蜜, ドライフルーツ, 製菓原料など糖質の食品における<I>Chrysosporium</I>のさらなる汚染事故発生の機会も十分あると思われる.