著者
鈴木 博之 四郎翁姆 才譲三周
出版者
The Linguistic Society of Japan
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.159, pp.69-101, 2021 (Released:2021-03-30)
参考文献数
73

チベット系諸言語は複雑な証拠性・認識性の標示体系をもつ言語群として知られている。これまで多くの先行研究がさまざまなチベット系諸言語の証拠性の記述を行ってきたが,用語と枠組みが先行研究によって多岐にわたるため,これらの言語の証拠性に関する対照研究は困難であった。本稿では,研究蓄積のあるラサチベット語の証拠性の体系を1つの基準として,共通の調査票を用いて5種類のチベット系諸言語の判断動詞と存在動詞に関する「アクセス系」に属する証拠性の体系を記述し,各形式の形態を分析する。次いで,言語間に認められる異同を議論する。結論として,本稿で取り上げたカム及びアムド地域のチベット系諸言語は,判断動詞と存在動詞を統一的な証拠性の枠組みのもとに記述することが可能であり,その中で細部に異なりが認められるものの,本質的な体系を共有していることを示す。