著者
河西 奈緒 押野 友紀 土肥 真人
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.816-823, 2022-10-25 (Released:2022-10-25)
参考文献数
18

狭いホームレスの定義を採用する日本では、不安定居住の全体像が把握されておらず、その対応は属性グループごとに異なる制度内に位置付けられている。これに対し、異なる不安定居住グループを支援する民間団体らが結集し、市民から資金を募って、緊急宿泊支援の費用を拠出する「東京アンブレラ基金」を設立した。本研究は、広範な不安定居住を横断的に支えるシステムの先駆けとして基金を捉え、基金を設立した各団体の活動実態および居住支援や基金設立に対する意識を明らかにし、システム創出の意義を考察することを目的としている。研究の結果、団体らの活動から不安定居住が様々な年代や性、国籍、世帯構成の人々に広がっている実態が確認された。また基金の利用実績から、公的制度が緊急あるいは一時的な宿泊支援ニーズに適合しづらく、協働団体が自費や民間助成金を用いて対応している状況がうかがえた。基金が初めて創出した不安定居住に対応する枠組みは、対象者を属性や事情で選別せず、居住の状態によって等しく捉え、行き場のない誰しもに対応する地域や都市の在り方を示している。