著者
斉尾 英行
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本研究によって以下の結果を得た。(1) 自転の効果によって高速自転星の中に励起されることが予想される低い振動数を持つ振動が起こす星の表面での速度場および温度変動によって引き起こされるスペクトル線輪郭変動を計算し,早期型主系列星に観測されているスペクトル線輪郭変動との定性的一致を得た。このことにより,理論的にその発生が予想される振動が実際の星で起こっていることがかなり明らかとなった。(2) 自転する星に励起されることが数値計算によってたしかめられている低周波振動の励起機構を振動のエネルギ-という観点から考察した。その結果,自転する星の対流層には負のエネルギ-を持つ振動が存在し,それが通常の正のエネルギ-を持つ振動と共鳴を起こすと,エネルギ-が負のエネルギ-をもつ振動から正のエネルギ-を持つ振動へと流れ、全体としては断熱的であっても,振動の振幅が増大すると理解できることが明らかになった。(3) 上記の振動と同様のメカニズムによって励起される振動が木星の外層でも励起されることが可能であることを示し,この振動が最近木星に観測された非常に周期の長い振動に対応するものであることを提唱した。(4) 自転する星で非軸対称的な振動が起きると星の中の物質のもつ角運動量の輸送が起きる。このメカニズムによって星の内部から表面へと角運動量が輸送されると,星の赤道表面近くにある物質が強い遠心力によって放出され,星の周りの赤道面にガス円盤ができる。このような質量放出円盤の構造を星からの轄射の効果を考慮にいれて計算し,B型輝線星に周りに存在する円盤の性質との比較を行った。
著者
斉尾 英行
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.213-215, 1995-03-05
参考文献数
8

ハッブル宇宙望遠鏡の優れた解像度によって,乙女座銀河団内の渦巻銀河M100の中にある12個のセファイド型変光星(以後セファイドと記す)が発見された.それらの周期と明るさとの関係からM100までの距離が17.1±1.8Mpc(1Mpc &sime; 3.26×10<SUP>6</SUP>光年)と決定された.宇宙膨張による乙女座銀河団の後退速度と,求められた距離とからハッブル定数がH<SUB>0</SUB>=80±17kms<SUP>-1</SUP>Mpc<SUP>-1</SUP>((8.2±1.7)×10<SUP>-11</SUP>yr<SUP>-1</SUP>)と決められた.ハッブル定数は,遠方の銀河の後退速度(V)とその銀河までの距離(D)との比を与え(V=H<SUB>0</SUB>D),現在の宇宙膨張の速さの指標である.仮に,宇宙の膨張が現在まで減速されなかったとした場合,宇宙が現在の大きさになるまでに要した時間はH<SUP>-1</SUP><SUB>0</SUB>~1.2×10<SUP>10</SUP>年となる.現実の宇宙には物質が存在しているので,仮想的な斥力を考えない限り,宇宙膨張は減速され続けてきていると考えられる.このような場合,宇宙が現在の大きさにまで膨張するのに要する時間はH<SUP>-1</SUP><SUB>0</SUB>よりも短いはずである.このことは,我々の銀河内で最も古い天体である球状星団の年齢が~1.7×10<SUP>10</SUP>年であると評価されていることと矛盾する.