著者
永井 美之 実吉 峯郎 吉田 松年 斉藤 英彦
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

HIVに対する抗ウイルス剤開発にあたっての標的のひとつはちウイルスゲノムの逆転写の過程である。これまでに用いられたアジドチミジン(AZT)、ジデオキシシジン(DDC)には、相当な選択性が認められるものの、骨髄抑制などの副作用が重大問題となっている。骨髄抑制は、株化リンパ球とそこでのウイルス増殖の抑制から得られたin vitro治療指数からは予知できなかった。本研究では血液幹細胞のin vitro分化増殖系に対する薬剤の毒性が生体レべルでの骨髄毒性を反映するか否かを調べることを主要目的とした。ボランティアから得た骨髄細胞からエリスロポエチンと顆粒球コロニー刺戟因子により赤芽球系コロニー(CFUーE)及び顆粒球系コロニー(CFUーG)を形成させる過程に各種薬剤を加え、発育抑制の程度を算定すること、血小板系については株化された巨核芽球(MEGー01)の分裂増殖ならびにフォルボールエステルによる巨核球へ分化の際の薬剤の影響を調べた。その結果、AZTは臨床使用時の血中濃度に相当する濃度又はそれ以上で、CFUーEとCFUーGを共に抑制したが血小板系への毒性はみられなかった。一方DDCはCFUーEやCFUーGは抑制せずMEGー01細胞の分裂増殖を抑制した。巨核球への分化はDDCでも抑制されなかった。以上の結果は、AZTが貧血や顆粒球減少を招きやすく、DDCは血小板減少を招きやすいという実際の副作用とよく一致した。したがって、本システムは、抗エイズヌクレオシドアナログの骨髄毒性評価に有用であると考えられた。本システムにより新設計と既知のヌクレオシドアナログの毒性も検討したが、結果として、AZT又はDDCより優れた薬剤は見出せなかった。尚本研究の過程で、ヌードマウス、SCIDマウスを含む調べたすべての系統のマウス血清中に抗HIVー1活性の存在することを見出した。現在阻止物質の単離精製を進めている。