- 著者
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斎藤 徳美
山本 英和
佐野 剛
土井 宣夫
- 出版者
- 日本自然災害学会
- 雑誌
- 自然災害科学 (ISSN:02866021)
- 巻号頁・発行日
- vol.22, no.1, pp.59-74, 2003-05-30
- 被引用文献数
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岩手山では,火山性地震の頻発や表面現象の活発化に伴い, 1998年7月1日以降人山の規制が行われた。その後,噴火は発生していないものの,沈静化にも至らない状況で経過した。この間,経済環境の悪化が背景にあるものの,風評被害による観先客の落ち込みなど,地域経済への影響も考慮せざるを得ない状況となった。そのため,噴火の可能性が否定しきれないなかで,火山活動の監視や登山者の安全確保体制の整備をもとに,山頂まで入山規制の緩和を図るという,わが国では例のない「火山との共生」の試みが模索された。火山活動の監視や検討体制を整備し,研究者,防災関連機関,報道機関が連携する「減災の正四面体構造」(岡田・宇井, 1997) の実践のなかで,規制緩和のために必要かつ実効可能な安全対策の検討が行われた。そして,関係機関の連帯責任と連携を背景に,「気象台からの火山情報の適切な発表」,「登山者への緊急連絡システムの整備」,「自己責任の登山者への啓発」を三本柱とする安全対策が構築され. 2001年7月1日から10月8日まで岩手山東側登山道での入山規制の一時緩和が実施された。安全確保のためには,活動が活発化した火山には近づかないことが最善である。しかし,火山が有力な観光や地域振興の源である以上,有効な安全対策を構築し,地域社会と共生する取り組みが求められる。火山活動次第で規制や緩和を繰り返すいわば受け身の姿勢から,監視,評価,対策などの充実を図り,積極的な安全確保の対応に基づき入山を認めるといった岩手山での取り組みは,噴火周期の長い我が国の多くの火山にとって,先駆的な指針となりうると考えられる。本論文では,岩手山の入山規制の緩和に向けての登山者の安全対策の理念と具体的対策および今後の課題について論じることとする。