著者
新井 鐘蔵
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-16, 2019-04-30 (Released:2019-06-18)
参考文献数
33
被引用文献数
1

牛への濃厚飼料多給に起因するエンドトキシンの体内動態と第一胃運動,第四胃運動の変化と肝臓への影響について検討した.まず,ホルスタイン種雌牛を用いて圧ペン大麦を主体とした濃厚飼料多給を行ったところ,亜急性第一胃アシドーシスを生じた.第一胃液Lipopolysaccharide LPS)濃度は,飼料変換1 日後に約4 倍に増加し,14 日後には約23 倍に増加した.濃厚飼料多給前の末梢血液中にはLPS は検出されないが,濃厚飼料多給2 日後にはLPS 濃度が3.8 ± 5.2 pg/mℓと検出され,5 日後には12.7 ± 8.6 pg/mℓに増加した.第一胃運動の収縮力は,濃厚飼料多給2 日後に70 ± 10 % と有意に低下して鼓脹症を発症した.第一胃運動の収縮力は,14 日後には52 ± 2 % まで低下した.第四胃運動の収縮力は,濃厚飼料多給2 日後に60 ± 8 % と有意に低下した.牛に肝臓バイオプシーを実施したところ,濃厚飼料多給14 日後には肝臓に巣状壊死が認められ,28 日後には肝臓に出血巣が認められる牛もいた.次に,第一胃粘膜バリアと血中へのLPS の移行との関係について検討した.5 頭の健康なホルスタイン種去勢牛に濃厚飼料を多給し,軽度の第一胃アシドーシスを作出したところ,3 頭に第一胃不全角化症(パラケラトーシス)が発症し,2 頭の第一胃粘膜は正常であった.第一胃パラケラトーシスを発症した牛では,末梢血液中にLPS が検出され肝臓に巣状壊死が認められた.一方,第一胃粘膜が正常な牛では,末梢血液中にLPS は検出されず肝臓に病変は認められないことから,血中へのLPS の移行には第一胃粘膜の損傷が重要であることが示唆された.さらに,ホルスタイン種去勢牛にLPS を1 回静脈内投与して第一胃運動,第四胃運動および肝臓への影響について検討した.LPS 投与1 時間後に第一胃運動と第四胃運動が停止した.LPS 投与9 時間後に末梢血液中からLPS が検出されなくなり,同時に胃運動の再開も認められた.LPS 投与7 日後の肝臓に巣状壊死が認められた.以上のことから,牛の第一胃アシドーシスに伴い生じる第一胃運動や第四胃運動の抑制,並びに肝障害の要因としてLPS の血中への移行が重要な役割を果たしている可能性が示唆された.