- 著者
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新妻 信明
- 出版者
- 日本地球惑星科学連合
- 雑誌
- 日本地球惑星科学連合2016年大会
- 巻号頁・発行日
- 2016-03-10
半世紀前に確立したプレートテクトニクスは,中央海嶺における海洋プレートの拡大を定量的に記述することに成功した.しかし,拡大した海洋プレートの沈込については定性的な推定の域(「海洋底拡大説」の域)を脱するに到っていない.変形しなければ海洋プレートは沈込めないので,プレートテクトニクスの中心教義「変形しないプレート」を放棄しなければならない.海溝周辺の活発な地震活動は,海溝に沿って海洋プレートが沈込でいることに対応している.東日本大震災以後の地震活動は,太平洋プレートが海溝に沿って同心円状屈曲して沈込み,平面化して和達の深発地震面に連続していることを示している.プレートテクトニクスを海洋プレートに連続するスラブへ拡張するために,以下の仮定に限定して中心教義「変形しないプレート」を解除し,定量化する.1)海溝軸は屈曲しており,日本海溝については北から襟裳・最上・鹿島と名付けた小円に沿う円弧をなしている.2)オイラー回転する海洋プレートに連続するスラブ上の点は地心から見て同一オイラー緯線に沿って移動する.3)オイラー回転によるスラブ上面に沿うの移動距離は海洋プレートの移動距離に等しく,地心から見たスラブ上の点の移動速度はスラブ傾斜に応じて海洋プレート上の点よりも遅い.4)スラブ上面深度は海溝軸小円心からの距離によって決定される.小円心はスラブ上面深度断面の回転対称軸になる.5)海洋プレートは海溝に沿って同心円状屈曲し,平面化角Apに達すると平面化して深発地震面に接続する(付図).各小円についての同心円状屈曲半径や平面化角などの係数は地震活動に基づき決定する.これらの仮定のもとに,日本海溝に沿って沈込む太平洋スラブの運動を約10km間隔で0.125my毎に算出し,気象庁の初動発震機構解とCMT発震機構解を比較解析した.気象庁の地震計網から外れている日本海溝域の震源を海底地震計によって決定された震源(Shinohara et al., 2011, 2012; Obana et al., 2011, 2012,2013)と比較したところ,気象庁のCMT解の初動震源深度が深目に出ているが,震央分布に問題ないことが確認された.深海底面上の点と海底面下5kmの点との距離は,海洋プレートが移動しても5kmと一定であるが,海溝に沿って同心円状屈曲すると屈曲半径の小さい深度5kmの点が先行し,距離が増大する.5%の5.25kmに達する位置は日本海溝側の海岸線に沿っており,屈曲スラブの平面化に伴う地震活動と対応している.スラブが日本列島下を通過して日本海側に到るとその距離は10%以上に増大し,5.5km以上になる.スラブ表層5kmでもこれだけ大きな変形をもたらす沈込は,日本列島下のマントルへ更に大きなの影響を与え,日本列島の大地形形成に関与していることを示唆している.海洋プレート運動方向のオイラー緯線に直交するオイラー経線に沿って並ぶ点の間の併進距離は,海洋プレート上では一定であるが,スラブ沈込に伴うスラブ上面深度差によって変動する.小円心が島弧側に位置する場合には併進距離が増大,海洋側に位置する場合には減少する.変動の細部は小円心の位置とプレート運動方位によって支配され,併進距離変動は最大±1%に達する.小円心が島弧側の最上小円区で引張応力による正断層型発震機構解が優勢で,海洋側の襟裳小円区・鹿島小円区で圧縮応力による逆断層型発震機構解が優勢であることと良く対応している.震源分布も併進距離変動と対応している.深度200km以深CMT発震機構解の地心三次元座標系における最小自乗法によって算出された襟裳・最上・鹿島小円区からの平面(Vlad面)と,日本海溝に沿うスラブ上面との交線を算出した.この交線に沿って平面化による逆断層型震源が配列することと,その日本海側でCMT震源数が急減することは,海溝に沿うスラブの同心円状屈曲とVlad面への平面化が進行していることを示している.海溝から遠くの深い位置で交わる最上小円区から沈込だVlad面にはCMT震源が分布せず,海溝近くの浅い位置で交わる襟裳・鹿島小円区から沈込だVlad面にCMT震源が分布していることは,深発地震発生過程について示唆を与える.