著者
新妻 信明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

気象庁が公開しているCMT発震機構解に基づき太平洋スラブが下部マントルに到達し,崩落を開始したかを検討したので報告する.2015年5月30日M8.1の小笠原沖の地震では震度1以上で日本列島全域が揺れ,深度682kmの震源域が太平洋スラブに連続していることを示すとともに.太平洋スラブ先端が660km以深の下部マントルに到達したことを示した.この3日後の6月3日にも同域でM5.6深度695kmと更に深い地震が起こり,下部マントル突入を確実にした.これらの地震は同じ正断層型発震機構であった.震源域では2011年3月11日の東日本大震災後,日本海溝側への引張応力増大によって発震機構が変化し,2013年11月には西之島が噴火を開始した.また南方のマリアナ海溝域で2013年5月14日M7.3pr深度619kmが,マリアナスラブは海溝から同心円状屈曲したまま下部マントル上面に沈込んでいることを示した.伊豆スラブは同心円状屈曲後平面化して南ほど急斜しており,幾何学的にマリアナスラブとの間に裂け目が存在しなければならない.この裂け目の北側に位置する伊豆スラブ南端で.2015年5月・6月の下部マントル地震は起こっている.この下部マントル地震は現在の最深記録であるが,それまでの最深記録はウラジオストック域の2009年4月18日深度671kmM5.0+ntであった.この深度も660kmの下部マントル上面深度以深である.深度660kmの下部マントル上面の温度圧力条件下では,上部マントル主要構成鉱物のカンラン石は,高密度のペロブスカイトに相転移する.この相転移は低温ほど高圧を要するため,低温のスラブは下部マントル上面を通過できず停滞すると考えられる.スラブ先端も次第に暖められ,ペロブスカイトに相転移を開始すると,浮力を失って後続のスラブを下部マントルへ引き摺り込む.低温のスラブも引き摺り込まれると高圧になり相転移が連鎖的に進行する.連鎖的相転移はスラブを下部マントルに崩落させる.映画「日本沈没」(第2版)では,日本沈没を,停滞スラブの下部マントルへの崩落よって説明している.2009年4月18日の地震も下部マントル地震であったのであろうか.2009年4月18日の発震機構は横ずれ断層+nt型であり,停滞スラブ内の逆断層型発震機構と異っており,660kmを境界に発震機構が変わっている.また,震源がスラブの下面に位置していることは,沈込前に海底で冷却されていないことを意味しており,スラブ中で相転移し易い条件を持っていることから,下部マントル地震であったと考えられる.ウラジオストック域で太平洋スラブが下部マントルに突入していたとすると,2011年3月11日の東日本大震災の原因となったであろう.同域では,2016年1月2日にも初動震源(破壊開始)深度681km M5.7が起こっている.しかし,そのCMT震源(主要破壊)深度は641kmであり,発震機構が圧縮過剰逆断層P型と停滞スラブと同じであることから,2009年4月に下部マントルに突入を開始していたスラブ下面に停滞スラブが引き込まれて起こったと考えられる.ちなみに,2009年4月の初動震源深度とCMT深度は共に671kmであり,小笠原の下部マントル地震は,682kmと688kmおよび共に695kmである.太平洋スラブは2009年4月18日に下部マントルへの崩落を開始し,2011年3月11日東日本大震災を起こし,2015年5月30日・6月3日に伊豆スラブ南端も下部マントルに崩落させ,2016年1月2日にウラジオストック域で停滞していたスラブも下部マントルに引摺込んだ.千島海溝でも2012年8月14日深度654kmM7.3pが起こっており,660km以深の地震が起これば,太平洋スラブ全体は下部マントルへの崩落を開始する.日本列島は,日本海拡大後の1千万年前に脊梁域まで海面下に没している.この地質記録を生かし,既に開始した日本沈没に対処しなければならない.
著者
新妻 信明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

半世紀前に確立したプレートテクトニクスは,中央海嶺における海洋プレートの拡大を定量的に記述することに成功した.しかし,拡大した海洋プレートの沈込については定性的な推定の域(「海洋底拡大説」の域)を脱するに到っていない.変形しなければ海洋プレートは沈込めないので,プレートテクトニクスの中心教義「変形しないプレート」を放棄しなければならない.海溝周辺の活発な地震活動は,海溝に沿って海洋プレートが沈込でいることに対応している.東日本大震災以後の地震活動は,太平洋プレートが海溝に沿って同心円状屈曲して沈込み,平面化して和達の深発地震面に連続していることを示している.プレートテクトニクスを海洋プレートに連続するスラブへ拡張するために,以下の仮定に限定して中心教義「変形しないプレート」を解除し,定量化する.1)海溝軸は屈曲しており,日本海溝については北から襟裳・最上・鹿島と名付けた小円に沿う円弧をなしている.2)オイラー回転する海洋プレートに連続するスラブ上の点は地心から見て同一オイラー緯線に沿って移動する.3)オイラー回転によるスラブ上面に沿うの移動距離は海洋プレートの移動距離に等しく,地心から見たスラブ上の点の移動速度はスラブ傾斜に応じて海洋プレート上の点よりも遅い.4)スラブ上面深度は海溝軸小円心からの距離によって決定される.小円心はスラブ上面深度断面の回転対称軸になる.5)海洋プレートは海溝に沿って同心円状屈曲し,平面化角Apに達すると平面化して深発地震面に接続する(付図).各小円についての同心円状屈曲半径や平面化角などの係数は地震活動に基づき決定する.これらの仮定のもとに,日本海溝に沿って沈込む太平洋スラブの運動を約10km間隔で0.125my毎に算出し,気象庁の初動発震機構解とCMT発震機構解を比較解析した.気象庁の地震計網から外れている日本海溝域の震源を海底地震計によって決定された震源(Shinohara et al., 2011, 2012; Obana et al., 2011, 2012,2013)と比較したところ,気象庁のCMT解の初動震源深度が深目に出ているが,震央分布に問題ないことが確認された.深海底面上の点と海底面下5kmの点との距離は,海洋プレートが移動しても5kmと一定であるが,海溝に沿って同心円状屈曲すると屈曲半径の小さい深度5kmの点が先行し,距離が増大する.5%の5.25kmに達する位置は日本海溝側の海岸線に沿っており,屈曲スラブの平面化に伴う地震活動と対応している.スラブが日本列島下を通過して日本海側に到るとその距離は10%以上に増大し,5.5km以上になる.スラブ表層5kmでもこれだけ大きな変形をもたらす沈込は,日本列島下のマントルへ更に大きなの影響を与え,日本列島の大地形形成に関与していることを示唆している.海洋プレート運動方向のオイラー緯線に直交するオイラー経線に沿って並ぶ点の間の併進距離は,海洋プレート上では一定であるが,スラブ沈込に伴うスラブ上面深度差によって変動する.小円心が島弧側に位置する場合には併進距離が増大,海洋側に位置する場合には減少する.変動の細部は小円心の位置とプレート運動方位によって支配され,併進距離変動は最大±1%に達する.小円心が島弧側の最上小円区で引張応力による正断層型発震機構解が優勢で,海洋側の襟裳小円区・鹿島小円区で圧縮応力による逆断層型発震機構解が優勢であることと良く対応している.震源分布も併進距離変動と対応している.深度200km以深CMT発震機構解の地心三次元座標系における最小自乗法によって算出された襟裳・最上・鹿島小円区からの平面(Vlad面)と,日本海溝に沿うスラブ上面との交線を算出した.この交線に沿って平面化による逆断層型震源が配列することと,その日本海側でCMT震源数が急減することは,海溝に沿うスラブの同心円状屈曲とVlad面への平面化が進行していることを示している.海溝から遠くの深い位置で交わる最上小円区から沈込だVlad面にはCMT震源が分布せず,海溝近くの浅い位置で交わる襟裳・鹿島小円区から沈込だVlad面にCMT震源が分布していることは,深発地震発生過程について示唆を与える.
著者
新妻 信明
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.233-249, 2013-04-25 (Released:2013-05-31)
参考文献数
27
被引用文献数
3 4

Continental scientific drilling projects were promoted actively around the world in the latter part of the 20th century. The super deep drilling projects developed drilling technologies, and highlighted a lack of understanding of the Earth's interior. The International Continental Scientific Drilling Program was initiated to promote continental scientific drilling projects globally and international cooperation. Geology needs to be taken into consideration more and technology for preventing bore-hole break-outs needs to be developed in continental drilling projects. More work is required to take a fresh look at the Earth based on the facts obtained from the surface. Continental scientific drilling is a potentially important tool for undertaking this study of the Earth in areas such as the subsiding atoll concept and ocean floor spreading. Because accretion and arc magmatism accompanying subduction of the ocean floor are important in the formation of continental crust, continental scientific drill projects on the Japanese Islands will play an important role in geology and human society.
著者
中川 久夫 新妻 信明 早坂 功
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.267-280, 1969-05-25 (Released:2008-04-11)
参考文献数
62
被引用文献数
17 26