著者
新家 利一 中堀 豊
出版者
徳島大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

Y染色体はその大半の部分が父から息子へと伝達される.したがってY染色体上の多型を解析することはヒトの父系起源の解明につながる.我々はY染色体上に存在する.SRY遺伝子およびDXYS5Y部位に多型を見いだし,以前にHammerらによって報告されたYAP多型との組み合わせにより,日本人男性を4つのハプロタイプに分類した.これらの多型を利用して他民族と日本人との関係を研究すると共に,男性間の表現型に違いがないかどうか検討している.我々は従来行ってきたY染色体に関する分子遺伝学的研究から,Y染色体構造の多様性がヒトの精子数と関連しているとの仮説をもった.この仮説を検証すべく,Y染色体上の3種類のDNA多型マーカーを用いて,日本人Y染色体を4種類のタイプに分類し,疫学的手法を用いて,おのおののY染色体ハプロタイプと子供のいる健常男性の精子数との関連を検討した.子供のあるボランティア成人の精子濃度を調べたところ,Y染色体のタイプによって精子濃度が異なることがわかった.また男性不妊の重要な原因の一つである,無精子症の頻度もY染色体のハプロタイプによって異なっていた.この事実は,(1)Y染色体のタイプによって精子数が異なる,(2)無精子症の起こり易さは特定のY染色体のハプロタイプと関連している,ということを示している.精子数が少ないタイプおよび無精子症の頻度が高いグループはHammerらにより縄文系とされている男性であった.