著者
新里 忠史 安江 健一
出版者
一般社団法人 日本原子力学会 バックエンド部会
雑誌
原子力バックエンド研究 (ISSN:18847579)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.125-138, 2005 (Released:2013-03-31)
参考文献数
54
被引用文献数
4 4

本論では, 幌延深地層研究センターで実施している地質環境の長期安定性に関する研究について, 文献および現地調査の結果を示す. 幌延地域は, 新第三紀から第四紀にかけての堆積層が広く分布する天北堆積盆に位置する. 年代層序学的検討から, 天北堆積盆内における堆積域は東部から西部へ移動したことが推定された. また, 微小地震の震源, 活構造, および第四系の分布は, 現在地殻変動の活発な地域が幌延地域の西部であることを示す. 加えて, 幌延地域とその周辺において実施された反射法地震探査の結果を踏まえると, 幌延地域西部では, 約300~200万年前から現在に至るまで, 東から漸次西へ向かって成長するfold-and-thrust帯をなす地質構造が発達してきたと推定される. 幌延地域に広く分布する海成段丘面を利用して解析をおこなった結果, 幌延地域西部に位置するサロベツ背斜では, 軸部における旧汀線高度が翼部におけるそれよりも高い. また, MIS 1とMIS 7の海陸分布を比較した場合, MIS 1における陸域は幌延地域の活褶曲分布とほぼ一致する. このため, 幌延地域において地質環境の変化を評価・予測するに当たっては, 約300~200万年前以降の期間を対象として, 地殻変動場の移動および活断層や活褶曲など活構造の履歴と地殻変動場の移動, およびそれらの影響等に関する資料を十分検討する必要がある.
著者
新里 忠史 佐々木 祥人 三田地 勝昭
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

はじめに東京電力福島第一原子力発電所事故に由来する放射性物質のうち,Cs-137は半減期が約30年と長く,今後長期にわたり分布状況をモニタリングし,その影響を注視していく必要がある.福島県の約7割を占める森林域については,住居等の近隣の森林や森林内で日常的に人が立ち入る場所での除染等とともに,森林整備と放射性物質対策の総合的な取組みが進められている[1].本論では,山地森林におけるCs-137の流出特性に林床状況が及ぼす影響について,福島県の阿武隈山地に分布するアカマツ-コナラ林での調査結果を報告する. 調査地と手法森林域に降下した放射性セシウムは,降雨を起点とする林内雨や樹幹流及びリターフォールにより林床へ移動し,林床から土壌流出及び表面流に伴い林外へ移動すると考えられる.土壌流出によるCs-137流出は表面流の100倍程度[2]であり,前者に伴う流出がより重要と考えられる.本論では,土壌流出の最初の段階である降雨による土壌粒子の飛散(雨滴侵食)を対象として,斜面下方への放射性セシウム流出量と林床状況の関連を考察する.観測領域は阿武隈山地に分布するアカマツ-コナラ林の西向き斜面であり,面積は約10 m四方である.観測領域にアカマツはなく,平均樹高8 mのミズナラを主体とした落葉広葉樹が分布する.観測領域の斜面上部は下草が繁茂し落葉落枝等のリターが堆積する.斜面下部は,下草が除去されリターの堆積した北側及びリターが除去され裸地状態の南側に分けられる.斜面の傾斜は27~28度の範囲にある.林床状況が異なる以上の3領域において,雨滴侵食で飛散する土壌粒子を回収するためのスプラッシュカップを各領域に5台ずつ設置し,約1ヶ月間の観測を実施した.スプラッシュカップは直径30 cmあり,カップ内側の中央に林床表面が露出した直径10 cmの孔(内部孔)があけられている.内部孔の林床に雨滴があたり土壌粒子が飛散すると,内部孔を円形に取り囲み配置された高さ10 cmのトレイに土壌粒子が回収される.回収トレイは,内部の仕切り板により斜面上方と下方へ飛散する土壌粒子を取り分けられる.スプラッシュカップ外側の林床から土壌粒子が混入することを防ぐため,同カップの周囲約1 m四方に麻布を敷く対策を施した.落葉落枝等のリターによる林床の被覆率は,スプラッシュカップの内部孔における林床表面で計測した.土壌粒子の粒径はレーザー回折式粒径分布測定器により測定した.同カップで回収した土壌は105℃で24時間の乾燥後,Cs-137濃度を測定した.Cs-137流出量は,スプラッシュカップ内部孔の面積,斜面下方へ移動した土壌の重量とCs-137濃度から算出した.Cs-137流出率は,観測領域の近傍における深度20 cmまでの土壌試料の分析値から単位面積あたりのCs-137蓄積量を算出し,その蓄積量に対するCs-137流出量の百分率とした. 結果各観測領域における落葉落枝等のリターによる被覆率は,斜面上部で95.4%,斜面下部の北側で48.2%,斜面下部の南側で5.1%であった.これに伴い1 m2あたりの斜面下方への土壌移動量も異なり,斜面上部で8.5 g,斜面下部の北側で11.3 g,斜面下部の南側で21.2 gであった.移動土壌の粒径分布は,観測領域における林床0-1 cmの土壌粒子と比較し,淘汰が非常に悪くほぼ対称の歪度を示し,粒径に依存した選択的な土壌粒子の移動は確認できなかった.また,土壌のCs-137濃度から求めた1 m2あたりのCs-137流出量は,斜面上部で523 Bq,斜面下部の北側で295 Bq,斜面下部の南側で710 Bqとなった.ここで,斜面上部と斜面下部における1m2あたりのCs-137蓄積量(上部33 kBq,下部101 kBq)との比較からCs-137流出率を算出すると,下草が繁茂しリターが堆積する斜面上部では0.5%,下草がなくリターの堆積した斜面下部の北側で0.9%,下草とリターがなく裸地状態である斜面下部の南側では2.1%となった.以上の結果は,林床の被覆状況が森林域の放射性セシウム流出に関して重要な環境条件であることを示している.また,林床の下草や落葉落枝等のリター除去を行うような森林域での除染活動においては,除染後に下草が繁茂し落葉落枝等が堆積するような環境整備を合わせて実施することが,放射性セシウム移動抑制対策につながることを示すと考えられる. [1]環境省,森林の除染等について.http://josen.env.go.jp/about/efforts/forest.html[2]Niizato et al., 2016, J. Environ. Radiact. 161, 11-21.