- 著者
-
出澤 正徳
施 衛富
- 出版者
- 電気通信大学
- 雑誌
- 基盤研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1995
本研究の最終目標は、錯視現象を心理学的プローブとして、人間の視覚システムの3次元空間知覚メカニズムを探り、その数理的モデルを構成し、視覚メカニズムの解明に貢献することである。特に、視覚刺激が運動する場合についての新しい錯視現象を探索し、従来には全く予想できなかった新しい現象が見出された。相関をもって運動する複数物体が群としての運動と群内での相対運動として知覚される現象が見出され、剛体条件や軌道条件等、脳内の表現をより単純化する表現単純化原理の作用を推測させる。また、両眼立体視において斑点状視覚刺激を運動させたとき、静止時には全く知覚できない視覚刺激の運動とは異なった表面構造の運動(構成的運動)が知覚される現象が見出された。新たに見出されたパントマイム効果では3種類(全面支持、背面支持、側面支持)の手がかりが考えられ、体積的な透明知覚に側面支持手がかりが不可欠であること、また、従来の多層ランダムドットステレオグラムにおける透明視とは本質的に異なるものであることが確かめられた。さらに、視覚刺激を、互いに異なる複数の構造間を遷移するように運動させたときに錯視対象の分離・融合とその遷移におけるヒステリシス現象が見出され、定量的な計測によってその存在が確認された。水平方向に運動する2群のランダムドットパターンの奥行き関係が異なって知覚されるというこれまでの知見では全く説明できない現象が見出された。さらに、ランダムドットステレオグラムで両眼非対応部に存在するドットが手前側に知覚され、それが物理的に可能な配置であることが証明された。これはこの分野の研究者間で信じられていた仮説(両眼非対応領域は背景の深さに知覚される)を覆す新しい発見である。これら、本研究において新たに見出された動的錯視現象の背後には、さらに多くの未知の現象が隠されており、視覚システムにおける空間知覚メカニズムを解明において有力な手がかりとなるものと期待される。