著者
日下部 光
出版者
日本比較教育学会
雑誌
比較教育学研究 (ISSN:09166785)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.51, pp.106-128, 2015 (Released:2020-08-15)

サブサハラ・アフリカ地域(以下、アフリカ)の孤児数は約5,000万人であり、アフリカにおける子どもの総数に占める割合は約12%である。アフリカの孤児の就学に関する研究では、貧困やHIVエイズの蔓延と不就学の要因に関する分析が重点的に行われてきた。一方で、孤児を含む個人の能力に焦点を当て、困難や脅威に対応する能力と不就学の要因をミクロな視点から分析する必要がある。その理由として、同じ困難や脅威に直面しても、多くの孤児は就学継続を実現していることが挙げられる。 本研究の対象国であるマラウイは、世界最貧国の一つであり、かつ年間のエイズ死亡者数4.8万人、孤児数79万人のHIV高感染国である。孤児の割合は、初等教育において11%、中等教育では19%に達している。無償の初等教育に対し、中等教育は有償にもかかわらず、多くの孤児が中等教育への就学継続を実現しており、本研究ではこの点に着目する。 本研究の目的は、マラウイの中等学校の孤児を対象に、①孤児自身やその親族の就学継続を可能にする取り組み、および②中等学校における就学支援の実践に対する事例分析をもとに、孤児やその親族、教師の視点から、孤児の生活と就学の実態を明らかにすることである。現地調査は、2014年9月にマラウイ南部ゾンバ地区において、中等学校の孤児生徒(33名)、教師(18名)を対象に、ライフストーリー・インタビューを実施した。 孤児の中には、親の死や生活の困窮など複層的に困難な状況に置かれても、中等学校進学後、学費の工面や生活維持を目的とする収入創出活動を通して、就学継続を可能にしていた。しかし、孤児の努力だけでは就学継続が厳しい場面もある。そのため、政府やNGOの奨学金プログラム、学校レベルでは学費の納入猶予や分納以外に、校長裁量で半額免除や未納の見逃し、教師による緊急時の支援等が展開されている。 孤児は厳しい生活環境の中で、時には、制服を洗濯するための一つの石鹸が確保できないことも、孤児の就学継続に影響を与えている。そのような困難な状況に置かれながらも、孤児自身の取り組みに加え、親族や教師といった周囲の関係者からの支援、政府やNGOの奨学金支援や校長裁量による学校側の柔軟な対応など、個人を取り巻く環境や人々の繋がりにより、孤児の就学継続が支えられている実態が明らかとなった。
著者
福井 貴巳 水井 愼一郎 桑原 生秀 日下部 光彦 高橋 恵美子
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.7, pp.351-357, 2010-07-15 (Released:2010-09-20)
参考文献数
25
被引用文献数
1

症例は74歳,男性。突然の強い右側腹部痛により救急車にて当院救急外来を受診。腹部CTにてS7の肝細胞癌破裂と診断され緊急入院となった。入院後,出血性ショックとなったため化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization; TACE)を施行しショックより離脱した。TACE後3日目より急性間質性肺炎による呼吸不全となったため,人工呼吸器管理,ステロイドパルス療法など施行し改善した。また,TACE後20日目には胆嚢壊死穿孔による胆汁性腹膜炎を発症したが,経皮的ドレナージ術にて改善し退院した。その後,4か月後に2回目,8か月後に3回目のTACEを施行。破裂後約11か月経過したが,肝内転移,腹膜播種を認めないため,当院外科にて肝右葉切除術,横隔膜合併切除術,胆嚢摘出術を施行した。病理所見は中~低分化型肝細胞癌であった。術後経過は良好で,術後18日目に退院となった。現在,術後約2年9か月経過したが,再発徴候は認められない。肝細胞癌破裂による出血性ショックに対して,肝動脈塞栓療法(transcatheter arterial embolization; TAE)により一時止血を施行し,全身状態が改善後に再度病変の検索,評価を行い,その後に二次的肝切除術を施行すれば良好な予後が得られる可能性がある。