著者
早川 友康 遠藤 千尋 関島 恒夫
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.15-32, 2016 (Released:2016-10-03)
参考文献数
71

要旨 トキの採餌エネルギー効率および水田の生物多様性と生物量に対する秋耕起の影響を明らかにするため、トキの行動観察と秋耕起処理実験を行った。行動観察では、耕起後の経過日数が20日、40日、および120日の3つの時点において、トキの採餌エネルギー効率を算出するとともに、行動観察を行った水田において、観察後に水田生物量および物理環境を測定した。その後、一般化線形混合モデルにより、トキの採餌エネルギー効率を説明する統計モデルを構築し、パス解析により、秋耕起がトキの採餌エネルギー効率に及ぼす影響の経路と、その時系列的な変化を解析した。耕起処理実験では、「無処理区」、耕起の程度の細かい「ロータリ耕区」、耕起の程度の粗い「サブソイラ耕区」の3つの処理区を設け、耕起処理前後における生物量、出現種数、およびトキの採餌エネルギー効率の変化を明らかにした。一般化線形混合モデルによる解析の結果、トキの採餌効率は、主に水田の物理環境特性により規定されており、生物量の効果は検出できなかった。また、パス解析の結果、耕起がトキの採餌効率を高める効果があるのは耕起後20日までであり、耕起後40日および120日では、耕起による効果が急激に低下したことが示された。耕起処理実験の結果、耕起処理前後において、生物の出現種数に有意な差異は見られなかった。一方、生物量に関しては、ロータリ耕区とサブソイラ耕区において、耕起処理後、生物量が水田内で減少したのに対し、畦際では増加した。本研究で得られた一般化線形混合モデルにより耕起処理前後の採餌エネルギー効率の変化を推定したところ、トキの採餌エネルギー効率は、耕起処理後に無処理区で約0.6倍に減少する一方、ロータリ耕区で約1.7倍、サブソイラ耕区で約3.9倍に増加することが予測された。以上の結果から、秋耕起は短期的にトキの採餌効率を高める効果はあるものの、その効果は40日以上にわたり持続しないこと、加えて、採餌環境の改善策として秋耕起を導入する場合、水田生物への負の影響が少なく、かつトキの採餌エネルギー効率を向上させる効果が高い耕起法として、サブソイラ耕の導入が有効であることが示唆された。