著者
関口 克明 吉田 燦 吉野 泰子 蜂巣 浩生 川西 利昌 早川 朝康 関口 克明
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

当プロジェクトは中国北西部の広大な黄土高原地域に根づく伝統住居"窰洞"の持続発展可能な近代化に関する研究である。調査対象の窰洞は陜西省延安市棗園村で、現地調査は1998年8月〜2002年1月に6回実施した。1〜3回は既存窰洞を対象とし、4〜5回は新型多層窰洞を対象としてそれぞれ冬季と夏季に実施した。測定内容は窰洞に関する居住環境の意識調査と温熱、音、光、空気質に関する物理量の計測である。生活に対する実態調査とアンケート結果より、・夏涼しく、冬暖かい温熱環境は90%が満足 ・空気質は通風が悪く粉塵が不快(70%) ・光環境に対する不満はない ・外部生活騒音は多少気になる等について確認した。その結果光環境については、昼間は最深部で暗く(昼光率1%未満)夜間照度は部屋中央で101x以下であることから、住民の視力検査とライトシェルフの可能性に関する調査を追加(2000/8)した。温熱環境は部屋全体として熱収支を把握し、具体的な問題点を指摘するため常に空間分布として計測した。測定は室内空気温、壁表面温度と壁体熱流について相関を持たせながら24時間の連続測定を基本とした。空気が乾燥し日較差・年較差の激しい気候のため、ふく射熱の影響を考慮した計測システムを開発して空間分布とベクトル温度による考察を加えた。室内気温は窰洞形式、居住下・無人下によって差はあるが、築年(築100年から築1年の5タイプ)による差はない。外気温との比較により土の保温性能が把握できた。新型窰洞は平地における独立二層型で、北側は換気・採光を考慮した窓開口のある厚い壁(45〜60cm)である。南側サンルームは冬季に効果的を発揮し、既存窟洞に対して明るく暖かな気温を維持するが、冬季の間終日影となる北側壁面からは常に熱流が外向きで壁体の蓄熱効果はないことを示した。また、ベクトル温度計により、気温と壁面温度の較差の様子を示した。