著者
斎藤 聡 八田 光弘 星 浩信 小柳 仁
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.27, no.9, pp.769-776, 1995-09-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
28

近年心臓移植再開の気運が高まり,心臓移植後患者の術後管理を我々が行う日も近い.移植後患者管理のためには,心臓移植後脱神経支配を受けた心臓の生理機能の理解が重要課題である.本論文では心臓移植によって脱神経支配を受けた移植心の安静時および運動負荷時の心機能を中心に考察を加えた.心臓移植によって移植心は自律神経系の調節機構を失っているにもかかわらずほとんどの心臓移植患者は生体の需要に対応できる生理機能が温存されNYHAI度の状態になり社会復帰することができる.移植心の安静時心機能はほぼ正常である.しかし拡張能障害,洞機能不全が認められることがありこれに対する注意が必要である.また移植心は運動負荷に対して正常心と同様心拍出量を増加させることができるが,そのメカニズムは運動初期のFrank-Starling機構,それ以後は血中カテコールアミンの作用という正常心とは異なる機構によって脱神経支配を代償している.また移植心の電気生理,薬理について言及したが,移植心の生理特性を理解すれば移植後の薬物治療も躊躇する必要はない.しかし移植心は脱神経支配に加え,拒絶反応,サイクロスポリン投与による高血圧,冠動脈硬化などによる心筋障害の危機にさらされているためこれらに対する厳重な経過観察が必要である.本論文において著者は,移植心の生理機能を考察し心臓移植は重症心不全患者に対する優れた治療であり,本邦においてはその治療体系において欠損した部分であることを示した.我々は心臓移植を心疾患治療体系の一部として組み込み,一般の理解を得る努力を続けるべきであると考える.