- 著者
-
星田 昌紀
- 出版者
- 千葉商科大学
- 雑誌
- 千葉商大紀要 (ISSN:03854566)
- 巻号頁・発行日
- vol.42, no.2, pp.133-157, 2004-09-30
- 被引用文献数
-
1
本論文では,映像メディア制作が学習者に与える様々な影響・効果について報告する。映像メディア制作が持つ重要な学習的効果は未だ多くの人々に知られてはいない。映像を視聴するという視聴覚教育は今まで数多く行われてきたが,映像を制作するという能動的活動が持つ本質的意味・重要性・可能性は,ごく限られた経験者が知るところである。映像を制作するというと,何かプロだけが行う特別な行為だと思われることや,逆に自分の個人的な記録を行う趣味の領域の活動としか理解されていないことが多い。しかしながら,筆者の経験によれば映像メディア制作は,「体験的メディアリテラシー」と呼ぶべき新しい学習パラダイムをもたらす。具体的には,企画力・表現力の養成,自発的学習,チームワークとコミュニケーションをはじめとして多くの領域に展開可能な新しい学びを実現する可能性が極めて大きい。しかもこれらはいわゆるクリエイティブな活動と呼ばれるものであり,今後の日本社会における重要性は加速的に増大するであろう。実際,筆者が現在までに行った例としては,担当する大学でのゼミ,社会人向け映像メディア制作教育ビジネス,小学校での映像制作についてのボランティア交流があり,これらの活動の中で新しい学習の環境づくりを実践してきた。その過程で筆者の予測以上にこの「体験的メディアリテラシー」がもたらす重要で新しい効果が得られた。本論文では,まず映像メディア制作学習が置かれた現在の状況と歴史,とくにメディアリテラシーについて概観し,その課題を整理する。次に筆者が行っている映像メディア制作学習支援の実践について具体的に述べ,その影響・効果および将来への新しい学習パラダイムとしての可能性および単なる学習を超えて自己発見につながる可能性にも言及する。なお映像メディア制作という用語はメディアを制作しているわけではなく正確にはコンテンツを制作しているわけであるが,その映像コンテンツもメディアが存在することを前提に作られておりメディアがなければ意味がないことから,本論文ではより広がりのある意味を持たせることを目的として「映像メディア制作」という用語を用いることにする。