著者
高橋 政代 春田 雅俊 田邊 晶代 柏井 聡
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

現在、社会的に問題となっている中途失明者の原因の多くは網膜の視細胞が選択的に障害されることによる。これらの網膜疾患に対して胎児網膜組織を移植することが欧米では試みられているが、胎児組織を利用することの倫理的問題、ドナー不足の問題、拒絶反応など問題も多い。我々は網膜幹細胞を培養して、視細胞移植の細胞源として臨床応用できないかを検討している。今回、胎児網膜、成体虹彩、成体毛様体から網膜幹細胞を分離培養しうるか、またこれらの細胞が視細胞への分化能を有しているかを確認した。ラットの胎児網膜をneurosphere法で培養することにより、神経前駆細胞のマーカーであるネスチンを発現する網膜前駆細胞を培養することができた。これらの網膜前駆細胞は分化誘導条件下では効率よく視細胞にも分化する。しかし継代を重ねるとともに視細胞に分化する割合も減少し、網膜としての組織特異性が失われてしまうことが分かった。次に毛様体色素上皮や虹彩上皮から網膜幹細胞を培養できないかを試みた。成体ラットの毛様体色素上皮や虹彩上皮からは細胞分裂して増殖し、神経前駆細胞のマーカーであるネスチンを発現する神経前駆細胞を得ることができた。これらの細胞は分化誘導条件下で引き続き培養するとニューロンまたはグリアのマーカーを発現するが、視細胞に特異的なマーカーは発現しなかった。そこで視細胞の発生に必要不可欠なCrxホメオボックス遺伝子を導入すると、成体の毛様体組織や虹彩組織から視細胞に特異的なマーカーであるロドプシンやリカバリンを発現する細胞を得ることができた。毛様体組織と異なり、虹彩組織は臨床的に確立された周辺虹彩切除術で安全確実に自己組織を採取できる。そのため、今回虹彩組織から得られた視細胞が生体内でも機能することが確認できれば、将来拒絶反応のない視細胞移植として、臨床応用することも期待できる。