著者
高橋 政代 本田 孔士 柏井 聡
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

我々が、過去にin vivoで報告した角膜上皮の細胞骨格蛋白fodrinの創傷治癒過程における分布変化をin vitroにおいて再現し、さらに培養細胞を用いてfodrinの分布変化の機構を検討した。牛眼の角膜上皮初代培養細胞を使って以下の結果を得た。confluentな状態になり細胞間の結合装置も完成した状態の角膜上皮初代培養細胞において、一部にabrationを行うとその周囲数層の細胞で受傷10分後にはfodrinの分布変化を認めた。すなわち受傷10分後には細胞膜裏打ち蛋白であるfodirnが細胞壁より離れて細胞質中にび慢性に分布するようになった。また、細胞内のプロテインキナーゼCを活性化するphorbol esterを培養液中に添加すると10分後にはやはりfodrinは分布変化をおこす。一方、細胞内カルシウム濃度を上昇させるカルシウムイオノフォアを添加した場合は分布変化が起こらなかった。以上の結果より、in vivoにおいて創傷治癒過程でおこる細胞骨格蛋白の分布変化がin vitroにおいても起こること、またその変化は細胞内カルシウムの上昇を介したものではなく、細胞内プロテインキナーゼCの活性化によって起こる可能性が示唆された。今後、細胞骨格蛋白の分布変化が細胞間及び細胞基質間の接着にどのように影響しているのか検討を進める。また、網膜の機能を保つために重要な役割を果たしている網膜色素上皮細胞等においても同様の変化が起こるか検索していく。
著者
高橋 政代 春田 雅俊 田邊 晶代 柏井 聡
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

現在、社会的に問題となっている中途失明者の原因の多くは網膜の視細胞が選択的に障害されることによる。これらの網膜疾患に対して胎児網膜組織を移植することが欧米では試みられているが、胎児組織を利用することの倫理的問題、ドナー不足の問題、拒絶反応など問題も多い。我々は網膜幹細胞を培養して、視細胞移植の細胞源として臨床応用できないかを検討している。今回、胎児網膜、成体虹彩、成体毛様体から網膜幹細胞を分離培養しうるか、またこれらの細胞が視細胞への分化能を有しているかを確認した。ラットの胎児網膜をneurosphere法で培養することにより、神経前駆細胞のマーカーであるネスチンを発現する網膜前駆細胞を培養することができた。これらの網膜前駆細胞は分化誘導条件下では効率よく視細胞にも分化する。しかし継代を重ねるとともに視細胞に分化する割合も減少し、網膜としての組織特異性が失われてしまうことが分かった。次に毛様体色素上皮や虹彩上皮から網膜幹細胞を培養できないかを試みた。成体ラットの毛様体色素上皮や虹彩上皮からは細胞分裂して増殖し、神経前駆細胞のマーカーであるネスチンを発現する神経前駆細胞を得ることができた。これらの細胞は分化誘導条件下で引き続き培養するとニューロンまたはグリアのマーカーを発現するが、視細胞に特異的なマーカーは発現しなかった。そこで視細胞の発生に必要不可欠なCrxホメオボックス遺伝子を導入すると、成体の毛様体組織や虹彩組織から視細胞に特異的なマーカーであるロドプシンやリカバリンを発現する細胞を得ることができた。毛様体組織と異なり、虹彩組織は臨床的に確立された周辺虹彩切除術で安全確実に自己組織を採取できる。そのため、今回虹彩組織から得られた視細胞が生体内でも機能することが確認できれば、将来拒絶反応のない視細胞移植として、臨床応用することも期待できる。
著者
高橋 政代 柏井 聡 田辺 晶代
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

毛様体色素上皮細胞の培養と神経分化誘導成体ラット毛様体組織を分離して色素上皮細胞側が下面になるようにして培養皿に接着させた。塩基性線維芽細胞増殖因子を加えた無血清培地を用いた培養により、毛様体組織から増殖して培養皿上に遊走する細胞が得られた。これらの細胞は多くが神経幹細胞のマーカーであるネスチンを発現するようになった。毛様体色素上皮から増殖した細胞を引き続き神経分化誘導条件(血清添加)下で培養すると上皮様形態であった色素上皮細胞は劇的に形態を変化させ、一部には神経様突起をもった細胞も認められた。これらの細胞の一部はニューロンのマーカーであるNeurofilament 200およびグリアのマーカーであるGlial Fibrilary Acidic Proteinを発現していた。ただしこの培養条件下では視細胞のマーカーであるオプシンの発現は得られなかった。アデノウイルスを用いたCrxとGFPの遺伝子導入次に視細胞に特異的に発現するホメオボックス遺伝子であるCrxを導入することにより、毛様体の色素上皮細胞が視細胞に分化しうるかについて検討した。毛様体色素上皮細胞に対し、視細胞特異的ホメオボックス遺伝子であるCrxまたはレポーター遺伝子であるGFP(Green Fluorescein Protein)を組み込んだアデノウイルスを感染させた。引き続き神経分化誘導条件下で培養したのち免疫細胞化学的解析を行った。GFPを導入した毛様体色素上皮細胞からは視細胞のマーカーであるオプシン陽性細胞は得られなかったのに対し、Crxを導入した細胞ではオプシンを発現する細胞が多数認められた。これらの結果から成体ラット毛様体色素上皮から未分化な神経幹細胞あるいは神経前駆細胞が得られ、Crxを遺伝子導入することにより、毛様体色素上皮細胞は視細胞に分化転換する可能性があることが示された。