著者
服部 信彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.223-240, 1965

南九州すなわち鹿児島県の大部分と宮崎県の南部にかけて,その上部層の名によって「シラス」台地とよばれる広い台地がある.この台地においては住民は水の不足によって悩まされて来た。それは多分「白砂」を意味し,火山灰砂層である「シラス」は非常に透水性が大きく,その表面に降った雨はたちまち台地の下層に滲透するからである.このため住民は水を得るのに深い井戸から水を汲むか,または谷壁の湧水を用いるほかはない.水を得ることは住民にとって非常な労苦であった.<br> しかし最近において革命ともいえる変化が生じた。それは水道が台地一帯につくられるようになったからである.このため住民は以前には想像できない程容易に水を得ることができるようになった.そのような短期間に水道ができた理由は第一にそれらが甚だ安くつくられるようになったからである.水道建設技術が急速に進歩したのである.第二は政府が財政支出によって経費の補助をしたからである.最後に市町村の尽力が大きい。<br> 「シラス」台地は南九州の重要な特色をなす。従ってそれと住民との関係は地理学の興味ある対象である.しかしわれわれが忘れてならないのは自然は決定的要因ではなく,ただ一つの要因たるにすぎぬということである.即ち技術的,経済的,政治的要因も重要である.筆者はこの事実,ひいては南九州の特色を研究した.